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日中緑化交流基金首席研究員  長島 成和(前橋市下細井町)



【略歴】長野県生まれ。林野庁前橋営林局(現関東森林管理局)、日本森林技術協会を経て、興林に勤務。第2次奥利根地域学術調査隊員。林業技 士。専門は森林土壌。


中国緑化報告(3)



◎気候や地形を考え植林



 中国の国土面積は約960万平方キロメートルにおよび日本の約25倍である。緑化に際し考えなければならないのは気候の違いである。緯度の違いは気候にも大きな変化をもたらし、南の熱帯モンスーン気候、内陸の温暖冬季少雨気候、砂漠、北の冷帯冬季少雨気候など11の気候区に分けられ大陸性気候を呈している。日本は一般に温帯気候で海洋性気候域にあって気温や降水量等植物の生育に特に問題はないが、中国では気候の複雑さを考えながら緑化に取り組む必要がある。さらに、地形や標高、土壌等立地環境の把握は必要不可欠な条件となる。

 さて、緑化に際し珍しい事例をあげてみる。植林作業では、一つに、水中に森林(マングローブの森づくり)を作ること。これは南シナ海に注ぐ大河の河口への植林である。舟に乗り干潮時のチャンスをねらっての作業である。日本では沖縄地域でわずかに実施している例はあるが、一般には見られない作業である。

 二つに、砂漠や砂漠化しつつある土地への植林である。将来、森林づくりには期待が持てる条件の箇所に樹を植える以外にも必要なことがある。防風、防砂のための「砂障」「草方格」といわれる作業である。砂地表面に藁(わら)、柴、樹枝、礫(れき)等を使用して砂の移動を制御し、これにより植えた苗木の埋没を防ぎ、また種子の飛散等を和らげるのである。 三つに、岩石地への植林である。農地として開墾した土地は、降雨によって表土は流亡し岩石が露出する。そんな箇所を火薬で爆破して、植え穴を掘る作業である。不足する土を遠方からトラックで運び、現場へは人力で運び上げている。多くの人口を抱える中国ならではの「人海戦術」はここにも生きている。

 四つ目に黄土高原等の緑化である。この地域は降水量が年間200~500ミリ程度と極端に少なく、降雨期は6月から9月の4カ月足らずであり、水は大変貴重となる。植樹の際の植え穴に工夫が施される。「魚鱗孔(ぎょりんこう)」と言い、約1メートル四方に掘った穴の周りは水を漏らさないよう土で固め、土のうのようなものを築く。さらに驚くのは、この魚鱗孔に雨水が流れ込む流路を造り、斜面の水が植えた樹に注がれるよう工夫をこらしている。

 また、黄土高原は、貴重な水をためる池の作設が重要な事業の一つとなる。丘陵地形の上部または中腹にある凹部などに造られている。池の規模は、50~100坪程度の大きさのもので、ためられた水は場合によって、動力による水揚げを行いスプリンクラーで灌かん水するがこれらはまれで、そのほとんどは桶おけと柄ひし杓ゃくによる人力作業である。これらの作業は多くの人手と重労働であるということを各地の作業を通じ思い知らされた。






(上毛新聞 2012年4月4日掲載)