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県民健康科学大准教授  杉野 雅人 (伊勢崎市連取町)



【略歴】愛知県出身。2000年博士(工学)取得。診療放射線技師、第一種放射線取扱主任者、医学物理士。環境放射線の研究を20年続け、10自治体の放射線測定を監修。


環境放射線測定



◎正しい知識普及へ活動



 昨年3月11日に起きた東日本大震災から1年以上が経過した。大地震が引き起こした巨大津波は多くの人々をのみ込み、今もなおその深い爪痕を残している。震災で尊い命を失われた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、大切な家族や親戚を失われた遺族の方々に心より深くお見舞い申し上げます。

 大地震が起きた午後2時46分ごろ、おなかをすかせていた私は、研究室の冷蔵庫に入っていたソーセージを取り出した。地震が起こる数日前、子どもが出勤前に持たせてくれたものだ。本棚の前に立ち、ソーセージを口に入れた瞬間だった。ゴーゴーという不気味なごう音が聞こえてきた。その数秒後、まともに立っていられないくらいの大きな揺れを感じた。「地震だ。でかい」。ただひたすら静まるのを祈った。どれくらいの時間が経過したか分からないが、揺れが少し収まったと感じたとき、研究室を飛び出した。廊下にいた教員と一緒に急いで階段を駆け降り、校舎の外へ出たが、なおも地面は断続的に揺れていたのを覚えている。

 大地震が引き金となったのは大津波だけではない。その翌日には、福島第1原子力発電所で1号機水素爆発の報道が流れた。14日には3号機が、続く15日には2号機と4号機で異常が発生した。14日午後3時すぎ、サーベイメータと放射性核種を分析するスペクトロメータという測定器を持って本学のグラウンドに出た。特に異常は認められず、普段と変わらぬ放射線の量を示していた。翌日午後1時半すぎ、グラウンドに向かう途中でサーベイメータのスイッチを入れた。昨日より大きい数値を示した。スペクトロメータからはヨウ素やセシウム等が確認された。核種はともかく、その線量は自然界にも存在するレベルであるため、それほど驚くことではなかった。

 あの日以来、自分の日常スタイルは大きく変わった。各自治体から環境放射線に関する質問や講演依頼、放射線の簡易測定方法についての講習会依頼等が殺到した。それまでに蓄積した環境放射線データや測定技術があらゆるところで役立った。事故前、「群馬で環境放射線測定など無駄」と言われたこともあった。が、無駄なものなどない、という信念を持ってやってきたことが功を奏した。昨年は休日をほとんど返上して環境放射線関連の業務に取り組んだ。

 しかし、現在もなお放射線(能)に関する課題は山積みである。除染計画とその作業、除去土壌やがれきの始末、また、周囲の地域と比較して線量が少々高いというだけで風評被害が後を絶たない。今後も群馬県民の不安が少しでも解消されるよう、環境放射線データを公表するとともに放射線に関する正しい知識の普及活動に取り組んでいきたい。







(上毛新聞 2012年4月15日掲載)