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視点 オピニオン21
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デザイン事務所代表  平野 勇パウロ (太田市内ケ島町)



【略歴】ブラジル・サンパウロ市生まれ。89年に来日。2010年から太田市と大泉町を中心に、ブラジル文化を紹介する日本人向けのフリーペーパーを発行している。


感情から学ぶ文化



◎価値観の違いも反映



 春の季節は、学校はもちろん、新しい職場などで、さまざまな出会いもあれば、長期間親しんでいた環境を離れる人もいるだろう。この環境の移り変わりに伴い、喜び、悲しみもあれば、しみじみした思いにひたることもあり、その感情の受けとめ方に、ブラジルと日本の大きな文化の違いを実感させられる。

 日本の卒業式では、ハンカチの準備は必須だ。親しんでいた友人、お世話になった先生とも別れ、今までの生活を思い出すことで、多くの人は涙してしまうものだ。大泉町に住むブラジル人も一緒に感動して泣くようになったが、実はブラジル本国では卒業式は寂しさというより、喜びの感情の方が強く、むしろ泣く人は少ない。友人・先生とは卒業後いつでも会えるためなのか、これから始まる新生活を想像しながらワクワクする思いの方が強い。もちろん、環境の変化に伴い別れを惜しんで泣くこともあるが、その風景は少し異なり、お互いにハグや握手をして喜びと悲しみを伝える。

 ブラジル人の友人が送別会でスピーチをした時のことだった。友人は用意した日本語の手紙を読んで泣いていたが、泣いたことが自分でもとても不思議だったという。同じ内容をポルトガル語でスピーチしていたら、きっと泣いていなかったに違いないからである。ブラジルでは、日本語のように、言葉だけで泣かせることは難しく、ハグや握手などのボディータッチで感情を相手に伝える。ハグしあった時に感情が表に出て涙を流したり、とにかく相手と触れあうことが大切なのだ。

 ブラジルと日本のテレビドラマを比較すると、感情の好みが顕著に表れる。日本のドラマは感動、泣けるシーンが多いのに対し、ブラジルは明るく振る舞うシーンが多く、ハッピーエンドで終わるのが主流だ。また、その他の番組では、日本はノスタルジックで、昔の映像やシーンを振り返りながら番組が制作されることが多いのに対し、ブラジルでは昔の番組がそのまま放送されることはあっても、過去を振り返るための番組が制作されることはあまり見られない。

 このことから、日本人は過去から現在までの過程をとても大切にし、ブラジル人は今をいかに楽しく過ごせるかを重点に置いて生活しているように感じられる。同じ場面でも異なる思いが込められてしまうのは、そんな日ごろの価値観の違いの表れなのだろう。国が変われば、卒業式と同様にさまざまな場面で思いの伝え方や伝わる感情も異なる。その国の人から感じとれる喜びと悲しみを理解することで、さらなる強い絆を築くことができるだろう。







(上毛新聞 2012年4月17日掲載)