,

視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
アドベンチャーレース・マネジメント  竹内 靖恵 (みなかみ町鹿野沢)



【略歴】愛知県出身。1997年のアドベンチャーレース(AR)で日本チームの通訳を務めたこ とが縁でプロレーサー・田中正人と結婚。以降、ARの普及活動に従事。


壁を乗り越える



◎信頼し合い目標へ進む



 毎年2月にチリで開催されるパタゴニア・エクスペディションレースは完走率が3~5割という世界で最も冒険的でハードなアドベンチャーレース(AR)である。今年は世界各国から19チームが挑んだ。3回目の出場となるチームイーストウインド(TEW)はアジア代表として臨んだ。初回は7位、2回目は5位で完走している。今回は目標を3位以内と設定。そしてそれを見事にクリアして準優勝を果たし、念願の世界トップチームの仲間入りをした。

 それまでのTEWは困難な壁に突き当たるたびに立ち止まって話し合い、ベストルートを見つけようとしていた。しかし、それがベストなルートかどうかは、先に進まないと結果的にはわからない。不眠不休で数日間も動き続けるレースでは肉体的にも精神的にも追い詰められる。ここぞと決めたルートがやぶであれば、そのルートを選んだメンバーを非難することさえあった。やがてささいなことからチーム内に亀裂が入り、徐々に信頼が崩れ、ゴールどころか足を引っ張り合う状況になることもある。ARでリタイアするチームは、こうしたチーム内の亀裂が原因になることが多いのも事実だ。

 一方、トップチームはいったん方針を決めたなら、やぶがあろうと川があろうと目的地に向かって一丸となって直進する。時には想像以上の深いやぶに出くわすこともあるが、ちゅうちょせずに突き進む。もっと適切なルートがあったのかもしれないが、決めたルートがベストルートと認識し、チーム全員がぶれない。それどころか起きてしまったミスを「大丈夫さ!」とフォローし合う。そして壁をクリアした時は互いを思いきりたたえ合う。こうした言動は、他人に責任を転嫁するのでなく、互いを信頼し、個々に自己責任を持つことで生まれてくる。実はこれが一番難しいことでもあるのだ。

 今回のレースでTEWは常にこうした言動を維持してきた。その結果、今までになく良いレース展開が作り上げられた。「信頼と自己責任を胸に、目指す方向に一途に進むだけ」。それが世界でトップになるチームの戦い方だとキャプテンの田中正人は言う。ARに限ったことではない。私たちは家族、会社、学校、地域、国家という何かしらの組織の中で日々を過ごしている。時には壁にぶつかることもある。そんな時は目指すべき方向へ一丸となって進んでみる必要がある。家族を、仲間を、地域を信頼し、ベクトルを合わせ、自己責任で目標に向かって直進する。不平不満が出るのは自己責任の欠如、他人に責任を転嫁しているからである。ミスがあれば責めるのではなく、「大丈夫さ」と声を掛けフォローし合おう。うまくいったらたたえよう。そうすれば今まで越えられなかった壁をきっとクリアすることができるだろう。






(上毛新聞 2012年4月18日掲載)