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静岡大人文社会科学部教授  布川 日佐史 (静岡県沼津市)



【略歴】ブレーメン大客員教授、厚労省「生活保護の在り方に関する専門委員会」委員などを歴任。雑誌『貧困研究』(明石書店)編集長。館林市出身。


ケア付き就労



◎高齢者支援の担い手に



 今月初めの大嵐の翌日に、スカイツリーを見上げる隅田川沿いの山谷掘公園で近くのNPO主催のお花見があり、80人ほどが集まりました。NPOの介護サービスを受けているお年寄りやヘルパーさんに交じって、若者や中高年の男性たちが高齢者の世話や会場設営、綿菓子や手巻き寿司作りなどで活躍していました。この男性たちは、生活保護を受けながら、いつもは高齢者の生活支援の仕事をしている人たちです。生活保護の受給者が多くなったこの地域では、生活保護制度が地域包括ケアの下支えをするようになり、新たな就労の場所を作り出しています。生活保護を受給している人たちが、援助サービスの新たな担い手として雇われ、地域ケアを支えています。自らも支援を受けながら働いているので「ケア付き就労」と呼ばれています。

 「ケア付き就労」で働いている男性たちのほとんどは失業などで自宅を失い、野宿生活をした経験を持っています。半数以上が何らかの身体・精神的病気を抱えています。若い人ほど家族との関わりが薄く、しかも一人暮らしの経験がありません。仕事につくには、まずは生活保護を受給し、支援を受け、ベースとなる生活そのものを築き上げる必要がありました。NPOを通じて住むところを確保し、生活支援を受けながらNPOに雇われ、地域の高齢者の生活を支援しているのです。

 主な仕事は、施設で暮らしている高齢者への食事の準備、配膳、日常生活の見守りや介助です。また、在宅の高齢者を訪問して生活を支援しています。火の元の管理や外出時の付き添い、近隣や大家さんとのトラブルの解決、寂しい時や困った時に相談にのる、味方になるというのが仕事です。これらの支えは、家族がいれば家族がしていることです。介護保険によるヘルパーさんにはしてもらえないささいな仕事ですが、単身高齢者が地域で生活をしていく上でとても大事な支えになっています。

 フルタイム・週5日の就労で月に15万円の収入を得ている人もいますが、身体的精神的条件から1日2時間だけという人もいます。その人にあわせて働く時間や仕事の内容を変えています。平均すると1日5時間、月7万円ほどの収入だそうです。体調の悪い人が高齢者を支援するのは、はた目から見ると心配ですが、高齢者の気持ちをしっかりつかんでいるのにはびっくりします。「支援されている人が支援する時の“思い”は違う」というのがNPOの代表の言葉です。生活保護受給者が急増したので受給者を減らせとか受給期間を限定せよと言う声が高まっています。こうした方向に制度改革が進むと「ケア付き就労」の芽が摘まれてしまいます。生活保護制度が地域包括ケアシステムの土台になるよう、前向きの制度改革が必要なのです。






(上毛新聞 2012年4月22日掲載)