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INOJIN工芸倶楽部代表  井上 弘子 (桐生市境野町)



【略歴】東京都大田区出身。筑波大芸術専門学群卒。同大学院を修了。在学中に陶芸を学び、県美術展や日本現代工芸美術展など入賞入選多数。工芸教室講師で工芸家。


料理は工芸品



◎器替え食事作り楽しく



 工芸は生活に密着した芸術なので、人の衣食住すべてに関係してきます。前回までにこの欄でノコギリ屋根の工房やキモノといった住や衣について話題にしたので、今回は食に関しての提案をしてみたいと思います。

 人は食物から栄養を取ることで生命を維持しているのですから、食事はとても大切です。特に家庭料理は日々の糧ですから、栄養も偏ることのないように努めなくてはなりません。私は作ることが何でも好きで、料理も例外ではないのですが、毎日の食事作りとなると、飽きてくることもあります。家事というのは終わりがない作業だからです。そんな時、目新しい器が登場すると料理が楽しくなって、またやる気が湧いてきます。

 器を作る楽しみは、そこに何を盛ろうかと画策することで倍増します。特に和食は目でも味わうものなので、いろいろなタイプの器が欲しくなります。この料理は磁器の白さに合うし、これは焼締めの渋い色に合わせたいし、これは赤絵の器に盛りたいとか思うと、どの陶芸技法も習得しなければ気が済まなくなるのです。作った料理と器のバランスが絶妙だと本当にうれしくなります。器は料理を盛った時点で完成すると言えます。

 INOJIN工芸倶楽部では昨年、いろいろな料理人の方に依頼して、食事会を行いました。旧「井甚織物」には膨大な数の漆器が残されており、これを利用して何か行いたいと考えていました。それで知人のFガーデンの社長さんに企画を相談したら、快く引き受けていただき、2人のベテラン料理人による晩餐さん会が実現しました。フランス料理を中心にしたものでしたが、漆器や私が制作した陶器を使って盛り付けをしていただきました。趣向を凝らした料理は素晴らしく、運ばれるごとに客の歓声が上がりました。

 この後、陶芸教室の生徒さんが作った器に料理人である息子さんが盛り付けをするランチや、料理好きの主婦が自家製野菜を使って振る舞う食事会等を企画しました。プロの料理人はたまには仕事を離れて料理の腕を存分に披露してみたいし、趣味が高じた人はプロとして通用するか試してみたい気持ちがあります。私も自分が作った器に他の人がどのように盛り付けをするのか見られて興味深い食事会でした。食べてしまえばなくなるものですが、心配りの行き届いた料理というのは本当に工芸品のようなものだと思います。

 もし、あなたが毎日の食事作りにうんざりしてきたら、器を一つか二つ新調してみてください。もしくは、しばらく使わなかった器を食器棚の奥からひっぱり出してみてください。器が目新しくなることで、ここに何をどう盛り付けようかと工夫したくなり、しばらくは料理作りが楽しく感じられることと思います。







(上毛新聞 2012年5月4日掲載)