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視点 オピニオン21
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紙芝居屋めるへんしあたあ主宰  信沢 淳一 (安中市松井田町)



【略歴】大東文化大を卒業後、郵便局に34年間勤務。2009年に紙芝居屋めるへんしあたあを設立、紙芝居の出前公演を有料化した。演じ方や制作の指導もしている。


お年寄りと紙芝居



◎感動再び心のふるさと



 きょうは「こどもの日」。親の愛と地域の優しさに包まれ、子どもたちにはすくすくと育ってほしいものです。

 戦争で失った子どもたちの笑顔は、戦後復活した紙芝居によってよみがえりました。路地裏で自転車の荷台に小さな舞台をつけて、駄菓子を売ってから見せた紙芝居屋さん。戦後しばらくは娯楽・文化の少なかった時代ですから、子どもたちが目を輝かせて飛びついたのも当然です。

 その当時、活劇にわくわくどきどき胸を躍らせ、悲劇に涙した子どもたちも、今は高齢者になりました。各地の老人会や施設にうかがうと、必ず出てくる言葉が「懐かしい」「昔はよく見たものだ」。子どものころに思いをはせ、懐かしんで迎えてくれます。

 現在、出販されている紙芝居のほとんどが幼児・低学年向けです。昔懐かしい紙芝居はもうありません。私たちがお年寄りにお見せするには現在の子ども向け紙芝居の中から、これならという作品を選ぶか、各地に伝わる民話などを手作りして演じるしかありません。

 介護施設ではケアとして見直されています。「高齢者向け紙芝居」は、お年寄りたちが昔を懐かしみ、思い出し、楽しむことで脳の活性化につなげようとするのが狙いです。ただ、「演じ方」と「作品選び」には気を使わなければなりません。お年寄りの場合、長い時間は禁物です。疲れや居眠り、立ち歩きが出たりします。いかに集中させるかが大変です。大切なことは、退屈させないよう演じ手が前面に出てお年寄りと対話し、大きな声でゆっくりと一体感を持った演じ方をすることです。また、お年寄りがどんな紙芝居を求めているのかを知ることも大切です。あるボランティア団体が施設で公演したところ「われわれは子どもではない」と言われたと聞きました。作品は何でも良いというわけではないようです。

 現在、出販されている高齢者向け紙芝居は、昔の風俗や生活用品、童謡、歌唱、はやり歌、子ども時代の遊びなどをストーリーに盛り込んだ作品です。「群馬県紙芝居研究会」の仲間で、伊勢崎市に住む北川鎭氏の「峠の老い桜」は桜と戦争を取り上げており、戦争体験者の多い高齢者向けの大切な作品の一つです。

 また、高齢者の人生を紙芝居にしたといわれる「人生紙芝居」が、もっともっと世間に広がり、老人会や介護施設のレクリエーションとして、お年寄りを楽しませることが普通になればと思っています。映画にも演劇にも音楽会にも出かけられなくなったお年寄りにとって、小さな舞台で、人のぬくもりのある生の声で演じられる「紙のお芝居」は、もってこいの娯楽でしょう。子どものころの感動がよみがえる紙芝居は心のふるさとです。







(上毛新聞 2012年5月5日掲載)