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視点 オピニオン21
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元・東北大大学院助教授  高橋 かず子 (甘楽町小幡)



【略歴】東北大大学院理 学研究科博士課程修了。理学博士。東北大で機能性有機化合物の開発研究に取り組む。1997年から甘楽町のかんらふるさと大使。


選ばれた者



◎自覚して責任を果たす



 今年は特に就職難で、厳しい難関を突破して就職した人も多いと思いますが、会社や高校や大学でも試験に合格した人は、試験に落ちた大勢の人の無念さの上に自分の合格があること、すなわち自分たちは選ばれた存在であることを自覚して、落ちた人の分までしっかり仕事や勉強をして、世の中に貢献する責任があります。

 人間は一生の間にそれほど多くの人と巡り合うことはできません。例えば、学校で教わる先生も限られており、その先生は生徒にとって選ばれた存在なのですから、しっかり教える責任があります。また生徒はその学校にとって掛け替えがない大切な存在ですから、一生懸命勉強する責任があります。

 親は一生を通じて、限られた子どもしか生めません。従って、その子どもは自分の親を大切にする責任があります。また、子どもにとっても、自分の親を代えることはできません。親はその子どもにとって掛け替えのない選ばれた存在ですから、親は身を削っても、子どもを立派に育てる責任があります。特に家庭を持つ女性が外で働く場合、母親は家庭と子どもへの責任をしっかり果たすという覚悟と意欲が必要です。生命を生み出し、これを育てる任務は第一に女性に課せられており、子育ては女性の天職であり、生きがいなのですから。

 3世代同居が圧倒的であったころに比べると、現在の核家族の人間関係は極めて簡素で、それぞれが自分勝手に行動している傾向が見られます。人間教育は家庭であり、作法や礼儀などを教えるのは学校よりも家庭です。従って、親の人生観が子どもの精神性や道徳観念に大きく影響を与えるので、親の責任は重大です。このようなことは夫婦間にも当てはまります。夫は妻にとって、この世で唯一の存在ですし、妻は夫にとって、たった一人の選ばれた存在です。従って夫として、また妻として、その責任を立派に果たさなくてはいけません。

 このように、自分以外の他者に心をくばる豊かな感性と、互いに喜びや痛みを共有できる幅の広い心を身につけなければ、人は人として成長ができないのです。

 私たち大学の教師にも重大な責任があります。特に大学院の学生は幾多の試験をくぐり抜けてきた、ごく少数の若者で、やがて人の上に立ち、日本の将来を担う貴重な存在です。従って、そのような学生を教える私たちは一流の研究者であるとともに、熱心な教育者でなければならず、教え子にとって人生の目標であり、憧れであり、尊敬される存在でなければなりません。人間味豊かな師との出会いは若者にとって、一生涯の宝となるからです。私たちにはそれぞれ選ばれた者としての責任があることを忘れないで、悔いのない人生を送ってもらいたいと思います。






(上毛新聞 2012年5月10日掲載)