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視点 オピニオン21
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仏師  関 侊雲 (前橋市六供町)



【略歴】農大二高卒業後、富山県南砺市の仏師、斉藤侊琳さんに弟子入り。10カ所で教室を開設。著書に『彫刻刀で作る仏像』(スタジオタッククリエ イティブ)など。


伝統技術の継承



◎時間かけ根気よく指導



 仏師は新しい仏像を制作することや古くなって傷んでしまった仏像の修復をすることが日々の主な仕事になります。またそれと同時に、この技術を後世の人々に伝えていくことも大変重要で責任ある使命だと思います。大陸から仏教の伝来とともに伝わった仏像は千数百年の時の中で、日本人の繊細な感性によって独特の変化を遂げ、世界からも認められる大変素晴らしい完成度を誇っています。

 詳しく言うと、今から約千年前後昔の平安、鎌倉時代に、その技術は頂点に達したと言われています。実際、私も今まで京都や奈良を中心に、昔の仏像を数多く拝観してきましたが、やはり鎌倉時代を代表とする仏師、運慶・快慶の仏像をはじめ、その頃の仏像は、仏師の背負った使命や責任が、その表情やお姿ににじみ出ています。現在とは違い、戦乱が続いた当時は仏像の制作依頼も時の権力者や要人からのものが多く、大変な圧力の中で一族の未来を背負って制作していたと考えられます。そのような厳しい時代背景と境遇の中、その完成度も円熟を極めていきました。

 その後、現在まで約千年の間、想像もつかない数の人々のご苦労や工夫によって、この技術は遺伝子のように大切に受け継がれてきました。また、伝統技術というものは長い時間をかけて完成していますから、一度途絶えてしまうと再興は極めて難しいと考えられます。ですから私は現代仏師として、日本人の先祖が大切に守ってきたこの技術を次世代にしっかりと伝えていくことが何よりも大切な使命であると確信しています。

 私は現在、7人の内弟子を育てていますが、弟子をかかえてみて、あらためて師匠・斉藤侊琳先生のご苦労が分かりました。単に技術だけを教えるのではなく、仕事に対する心構え、礼儀、我慢強さなど、あらゆる物事の道理をバランスよく教育していき、一人前の技術と社会性を身につけさせることが大切になります。私も10年もの長きにわたりご指導していただきましたが、その根気の必要なことを今は実感しています。

 人には持って生まれた性格や能力の差などによって得手不得手があり、さまざまな違いがあります。ゆえに一律に同じ指導をしても、なかなか実力を発揮できない人も多いのかもしれません。人は一人一人個性があって誰でも必ず長所があると思っています。私は一人の指導者として弟子の個性的な長所を最大限引き出していけるような指導が最も大切と考えています。今、社会では即戦力が期待される傾向が強い半面、その要求される速さに対応できず、戸惑いを感じている人も多いかと思います。理想ではありますが、時間をかけて根気よく指導することがかなえば、より実力を発揮できる人も増えていくのではないでしょうか。






(上毛新聞 2012年5月13日掲載)