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県立自然史博物館学芸員  姉崎 智子 (富岡市上黒岩)



【略歴】神奈川県出身。慶応大大学院博士課程修了。史学博士。京都大霊長類研究所研究員などを経て、2005年4月から現職。専門は野生動物の保護管理。


レッドデータブック



◎多様な生物の維持大切



 レッドデータブック。聞き慣れない言葉ですが、これは、絶滅してしまった生物や絶滅のおそれのある生物について書かれている本のことです。群馬県では、2001年に植物編、02年に動物編が刊行されました。そこには県内で絶滅の危機に瀕している(絶滅危惧種)植物183種、動物231種、また、存続が危ぶまれる(準絶滅危惧種)植物11種、動物134種が記載されています。これに絶滅種や注目種などを加えると、掲載された種は、植物382種類、動物526種類にものぼります。

 そして、今年、このレッドデータブックが約10年ぶりに改訂されます。現在、文献調査、標本調査、現地調査をしながら、対象とする野生動物種と、そのランク付けを慎重に評価しています。その際に不可欠なのが「県内のどこで、なにが、いつ、どれだけいた」という情報や、調査の際に採集され「採集日や採集地点などの情報がともなっている標本資料」などの物的証拠です。環境省の指針では、より客観的なデータに基づく生物種の指定とランク付けが求められていますので、「増えていると思う」あるいは「どうも減っているような気がする」など、主観的な感覚で評価することはできません。

 自然史博物館では、これまで多くの方々のご支援・ご協力をいただきながら、明治時代以降から現在までの県内の野生生物に関わるたくさんの標本資料や情報を収蔵してきました。今回の見直し作業では、長年にわたって蓄積されてきたこれら県有財産をフル活用しています。

 さて、私が担当している野生動物ですが、それらが絶滅、あるいは、絶滅に瀕することになる主な要因は、私たちヒトの活動であり、その破壊力、影響力の大きさは計りしれません。過去数十年の間に、私たちの生活は変わり、それとともに動物たちをとりまく環境も大きく変化してきました。市街地を中心に開発が進み、河川敷は整備され、かつてカヤネズミ(県絶滅危惧種)が多く生息していた茅原などの草原は失われる傾向にあります。また、本来、広葉樹の樹洞をすみかとするヒナコウモリ(県注目種)は、森林の伐採や針葉樹の植林などによって樹洞が減少したためか、建物など人工物の隙間を利用し、大規模な繁殖コロニーをつくっていることが確認されています。ヒトによって変えられてきた環境に適応できず数を減らしていく種、その環境を巧みに利用し、懸命に命をつないでいる種などさまざまですが、改訂版レッドデータブックに掲載される種の数は減る気配がありません。

 未来を担う子どもたちに豊かな自然を残し、伝えていくには、生物多様性の維持が欠かせません。そして、それは私たち一人一人の意識にかかっています。






(上毛新聞 2012年5月14日掲載)