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視点 オピニオン21
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iikarakan/片品生活塾主宰  桐山 三智子 (片品村菅沼)



【略歴】横浜市生まれ。東京都内の雑貨店勤務後、田舎暮らしを求めて2005年に片品村に移住。自然農法に取り組み、炭アクセサリー作家としても活動する。


生命の営みに沿う農法



◎自然に寄り添う社会を



 農のある暮らしに憧れて片品村に移住した私にとって、楽しい季節がやってきました。今回は私たちが取り組む自然農法の話をさせていただきます。奈良県在住の川口由一さんの提唱する「自然農」は、耕さず、草や虫を敵とせず、肥料、農薬を用いることなく生命の営みにひたすら沿う農法です。鎌と鍬くわがあれば誰でもできて、ビニールなどごみになる資材は使わない持続可能な農法なのです。

 遊休農地を開墾することから自然農は始まりました。畑に出るとたくさんのトンボが迎えてくれます。よく見るといろいろな種類の虫たちがこの畑で小さな生命を営んでいることがわかります。草を餌やすみかにしていたり、卵を産んだり、ここにある全てのものには役割があって、自分たちの生命をまっとうしています。その中で育つ作物は柔らかく、優しい味で、収穫後も日持ちが良く最後は腐らずに枯れていく。それが自然農の野菜です。

 「自然農は理想だけど、それで食べていけるの?」。周囲からの率直な言葉です。自然農では収量も少なく、大きさもバラバラです。週に1度、丸沼のペンション村へ販売に行きます。ヒット商品も生まれました。レタスやサニーレタスなどのサラダ類がなかなか大きくならず、待ちきれずに外葉からとってサラダミックスとして売り出したところ「レタス丸ごとより、いろいろな種類が入って使いやすい」と大好評。梱包もごみになるので量り売りにしています。今ではオーナーたちがザルを抱えて買いに来てくださいます。

 それから獣害というピンチもチャンスに変えることができました。ネットをするよりも動物が食べない作物をつくろうと、挑戦したのは秋に植えて7月に収穫するニンニク。鹿も熊も食べません。農繁期の短い片品で冬を生かすことができ、収穫後乾燥させれば持ちますので都内へ出店する時も販売しやすい。出店がきっかけで都内の自然食品店に卸すことにもなりました。他にも私たちの暮らし方に共感してくれるたくさんの人に支えられています。理想だけではなく、しっかりとした作物を収穫し、それを少しでもお金にすることができてこそ、自然農は本当の意味で持続可能なものになるのだと私は思います。

 私たちの畑には多くの若い人が見学に訪れます。若い人たちは今の暮らし方に限界を感じ、新しい暮らし方を模索しているように感じます。東日本大震災では自然の力を思い知らされました。未来の子どもたちにどんな社会を残したいか。私は人間の都合に合わせた社会ではなく、自然に寄り添った社会を残したい。草も虫も敵ではない。自然と共存して私たちは生きている。一人一人が自分の生命をどう営むのか。その選択ができる時代に生まれたことを幸せに感じます。





(上毛新聞 2012年5月16日掲載)