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視点 オピニオン21
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国立赤城青少年交流の家所長  桜井 義維英 (前橋市元総社町)



【略歴】川崎市出身。日体大卒。英国で冒険教育を学ぶ。1983年にNPO法人・国際自然大学校(本部・東京都)を設立。2011年4月から民間出身者として現職。


自分の役割を全うする



◎自立心と責任感を育む



 前回のこのコラムで、おうちの中での、お子さんの役割についてお話ししました。役割を全うすることで、家族の一員であるという充実感があると。それは、次の役割を全うする原動力になります。そして、年を経るとその役割には、責任が伴ってきます。

 たとえば…小さいお子さんは、朝刊を取ってくるという役割があります。しかし、大きくなってくると、その役割を弟や妹に譲り、新しく玄関先の掃き掃除という役割が与えられます。弟が玄関先の掃き掃除をしたいと思っても、それはお兄ちゃんの仕事であって、今の自分は朝刊を取ってくるのが仕事なのです。

 それでも、してみたくて「させて~」ということがあるかもしれません。しかし、お父さんは「それはお兄ちゃんの仕事だからだめ」と言うでしょう。でも、お兄ちゃんは自分が少し楽をしたいから、弟にやらせるかもしれません。しかし、弟はまだ小さいから、ほうきをうまく操れず、結局きれいに掃くことができない。お兄ちゃんは、やっぱりだめか~と思いつつ、自分が弟にさせたのだからと、その後始末をするのです。そうやって兄弟は自分の役割を再認識するのです。そして、自分には自分にあった役割が与えられていることを知るのです。

 今、会社に入った若者のなかで、「自分がしたい仕事はこんな仕事じゃない」と言って、退職してしまう人がいるそうです。きっと、子どものときに、自分の仕事と、お兄ちゃんの仕事の違いを経験していなかったのでしょうね。年とともに、与えられる役割も変わり、それに伴う責任も変わってくるものなのです。おうちの中でも、役割をきちんと務めなくてはいけないとご家族は言うでしょう。それに対する責任も説かれると思います。 しかし、その責任は社会の中での責任に比べると、すこし優しいもののような気がします。それは、お父さんやお母さんの庇護(ひご)のもとにあるからではないでしょうか。でも、それは家族という社会の良いところだと思うのです。

 それが、幼稚園や小学校に進むと、庇護してくれる先生たちは、多くの子どもたちの中の一人として扱ってきます。したがって、自分に与えられた役割をより自分の力で、何とか全うしなくてはいけなくなります。それが、自立と責任感を育てていくのでしょう。その役割の変化と、それに伴う責任の変化を経験することこそが、社会にでて、自分のしたい仕事に向かって、いくつかの役割を経ていくものだという、生きるすべを会得するのではないでしょうか。これは、勉強するとか教えるとかいうことではなく、会得するという言葉が一番しっくりするように思います。







(上毛新聞 2012年5月20日掲載)