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視点 オピニオン21
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高崎健康福祉大教授  入沢 孝一 (前橋市関根町)



【略歴】渋川高、中京大体育学部卒。嬬恋西中、嬬恋高をスケートの強豪校に育てた。日本代表コーチ・監督も務め、黒岩彰、黒岩敏幸を五輪でメダリストへと導いた。


年間練習計画の作成



◎成長予感させ努力継続



 冬季スポーツ選手にとって4月は、来るべき冬に向けた準備期として位置づけられる。一方、指導者にとっては年間計画を作成して選手に示す重要な時期となる。年間計画は、「選手が理解」し、この計画なら「成長できる」と予感させ、努力を継続し「できた」という結果までの実践過程を緻密なデータと経験を基に作り上げるものである。

 わがチームも「計画を理解」し、具体的な方法を実践する段階まで順調に推移してきた。これからの課題は「継続」である。選手が練習内容に自信と緊張感を持って継続的に取り組む「仕掛け」を工夫することが肝要である。そこで来季の命運を懸け、5月の連休を利用して年間計画に息を吹き込む重要な合宿を実施している。小山裕史氏が経営するワールドウィングトレーニングジム(鳥取市)で、小山氏とスタッフから指導を受ける事業である。

 氏の提唱する「初動負荷理論」は、マリナーズのイチロー選手や今季けがから復活した中日の山本昌選手、テニスの杉山愛選手をはじめ、たくさんの著名な選手が課題を解決して新たな動きを発見し、飛躍していくことで知られている。また、重度の障害を持った方々がリハビリに励み社会復帰を果たしている。小山氏とは、日本スケート連盟のフィットネスコーチをお願いした時から25年の付き合いになる。当時、「体力と技術の融合」をテーマに研究をしていた小山氏の協力を得て、スピードスケートで4個のメダルを獲得するという快挙を成し遂げた(1992年アルベールビル)。

 さて、鳥取での合宿の内容を紹介したい。合宿は努力を継続させるために必要な高いレベルのモチベーションを選手の心に大きく膨らませることを目的としている。最終的に求めるスケーティングを念頭に、技術の基礎となる歩行、重心移動と身体各部の位置の確認、関節可動域の向上と筋肉の神経制御の確認等、段階的なプログラムを展開しながら、ローラースケートによる技術の修正を試みた。小山氏を誰よりも知っているつもりの私にとっては予測の範囲内の指導が展開されていたが、選手には新鮮であり、自分の身体の感覚の変化に魔法を掛けられたような表情である。

 そして、最後に今回も予測をはるかに超えた画期的な出来事が展開された。スケートを知る者では発想できないスケートブレード位置の大幅な変更である。これにより一瞬にして完成に近い動きに変化した。「皆がトレーニングをしていたから変われたんです」。小山氏からのお褒めの言葉である。選手の心に氷上シーズンへの期待が大きく膨らんできたのが手に取るように感じられた。「継続は力」そして継続するためのエネルギーは「目標が達成できる」と予感させる方法の提示である。5月病は克服された。さあスタートだ。







(上毛新聞 2012年5月21日掲載)