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視点 オピニオン21
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現代芸術家  中島 佑太 (前橋市関根町)



【略歴】前橋市出身。中央高、東京芸術大美術学部卒。東京を拠点に活動後、2010年冬から前橋を拠点に、全国各地で地域と関わるアート活動を展開している。


記録歌〈きろくうた〉



◎感動やプロセスを伝承



 プロジェクトには、どこかに終わりがある。だが、そこで出会った人との関係や記憶が一緒に終わるわけではない。緩やかでも関係性を残していく方法として、誰でも気軽に口ずさめる記録のための「歌」はどうだろうか。

 「港祭り恋花火夢を見させてくれますか?」。こんなロマンチックでラブレターのような句を、仮設住宅に住むおばあちゃんが恥ずかしそうに見せてくれた。時は遡(さかのぼ)って2月のこと、宮城県塩釜市にある仮設住宅の集会所で、仮設住宅のテーマソングをつくるワークショップを開いた。これは塩釜市のアートスペースビルド・フルーガスの高田彩さん企画によるワークショップで、仮設住宅に住む入居者同士の仲間意識を高める目的で開催された。歌声喫茶などのレクリエーションで、顔合わせを兼ねて緊張をほぐした後、入居者のみなさんと歌詞作りなどを行った。完成した合唱曲『みなと、みなと』は「ふるさと」をテーマにし、タイトルは「皆と港」という意味をかけて付けた。歌詞はワークショップ参加者の津波で失われてしまった故郷の情景や、仮設住宅での日常風景などが織り交ぜてある。

 歌というメディアは、とても便利で、特別な演奏技術などなくても、1人で気軽に口ずさむことができる。近年は僕のプロジェクトの中で、プロジェクトのプロセスや感動、参加者との関係性を歌詞にして、歌を作っている。地元住民と一緒に歌って楽しみつつ、写真や映像とは別に、歌という形の記録を残す活動を実験的に続けている。

 その他に「家族のテーマソング」を作曲するワークショップも展開している。テーマソングとは普通、映画やテレビ番組に使われる楽曲のことであるが、家紋のような感覚で歌があってもいいのではないかと思い、新潟県に住む佐藤さんご一家のテーマソングを作ったことから始まった。

 その歌は、佐藤さんとのお付き合いの中で起きたエピソードや、思い出話などを歌詞にし、2人の子どもの器楽パートも加えた。数年たつと小学生だった子どもは高校生になったりする。当初は始めたばかりだった楽器も、今ではジュニアオーケストラの舞台に立つほどの腕前だ。そこで、その成長に合わせて、器楽パートを中心に歌をバージョンアップした。作曲者である音楽家、首藤健太郎は「今後も進化する曲だ!」と展望を話してくれた。

 プロジェクトの膨大な時間の中にある参加者の感動は特に伝わりにくい。感動とは、人から人へ口承によって伝わっていく。例えば歌のような無形の伝達メディアによってプロジェクトを記録する新しい方法を提示していきたい。







(上毛新聞 2012年5月28日掲載)