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視点 オピニオン21
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前橋工科大助教  稲見 成能 (玉村町南玉)



【略歴】横浜市出身。筑波大大学院博士課程単位取得退学。専門は環境デザイン。前橋けやき並木フェスタ2011実行委員長、日本建築学会関東支部群馬支所常任幹事。


まちなか遊園地



◎“成熟”のシンボルにも



 十数年ほど前になるが、私が群馬県に移り住んでしばらくの間、早く県内の様子を知りたかったこともあって、休日を公園や娯楽施設巡りに費やしていた時期がある。もちろん私一人ではなく、家族サービスを兼ねてのことだ。そのとき気付いたのは、本県には、それら余暇施設に相当するものが非常に多く存在するということであった。本県は多くの観光地を抱えているため当然でもあるのだが、非観光地エリアの市民向け余暇施設もかなり充実していると思った。なかでも、子どもを中心とした家族利用に適した施設の豊富さが顕著であった。おかげで、主立った余暇施設を「制覇」するのに数年を要したほどである。

 さて、そのなかで私が特に驚きを覚えたのは「まちなか遊園地」の存在である。まちなか遊園地とは、市街地の中に立地して市民向けを主とする遊園地のことだ。日本の遊園地の多くは戦後、各地に誕生し、高度経済成長時代には隆盛を極めたが、その後のレジャーの多様化や少子化の影響で閉鎖が相次ぐ状況に陥っている。しかし、まちなか遊園地は、そのような悪状況を「まちなか」という立地特性によって覆せる可能性を持つ点で、他の郊外型遊園地とは異なる。それが本県には3つも存在する。前橋の「るなぱあく」、伊勢崎の華蔵寺公園遊園地、桐生の桐生が岡遊園地がそれである(当時まだ営業中だった高崎の「カッパピア」や「渋川スカイランドパーク」は、私の考えでは郊外型遊園地に属する)。当時既に多くの遊園地が窮状に瀕するなかにあって、この3つの遊園地はそれぞれ個性的な特徴と魅力を持って予想を上回るにぎわいを見せており、残るべくして残っているという印象だった。とはいえ、こういった施設の存続は、関係者の並々ならぬ努力の上に成り立っているはずで、その信念ある仕事ぶりに敬意を表したい。

 まちなかに遊園地があるという意味は、実は大きい。遊園地にとって安定した集客性を望めるだけでなく、まちにとってはシンボルとなり得るからだ。かつてそれは復興のシンボルであり、やがて繁栄のシンボルとなったが、今日では“成熟したまちの精神”を表現するシンボルとなり得るものである。また子どもたちにとっては「遊び場の最高峰」である遊園地での楽しい思い出づくりの機会を増やすし、子々孫々繰り返すことで世代を超えた心のよりどころにもなる。まちなかに観覧車が見える風景は、まちに明るい雰囲気ももたらす。

 今後のまちなか遊園地の可能性としては、大人が楽しめる仕掛けづくりや、より積極的にまちとつながるような展開が期待できるように思う。私のような他市町村民は、3市民をうらやみつつ、今後もご相伴にあずかりながら、良い客としてサポートしていけたらと思っている。






(上毛新聞 2012年5月29日掲載)