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視点 オピニオン21
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県民健康科学大准教授  杉野 雅人 (伊勢崎市連取町)



【略歴】愛知県出身。2000年博士(工学)取得。診療放射線技師、第一種放射線取扱主任者、医学物理士。環境放射線の研究を20年続け、10自治体の放射線測定を監修。


園・校庭の放射線測定



◎協力者得て統一手法で



 昨年起きた福島第1原子力発電所の事故から1年以上が経過した。振り返ってみると、私は今までの人生の中で最も慌ただしく、また、最も多くの人と出会い、助けられた1年であったと思う。今回のコラムから2回ほど、昨年度実施した放射線測定関連について述べさせていただきたい。

 前回も少し触れさせてもらったが、事故後すぐに、本学のグラウンドで放射線測定を開始した。しかし、私一人の力では高が知れる。2台以上の測定器を動かしたくても手が足りない。1台ずつ動かしていては時間がかかる。雨が降れば、あるいは風が吹けば、測定は余計困難になる。そんな状況を察してくれた教員の方々が時間の許す限り、その後の測定に協力してくれた。土日、祝日も交代で測定を行ってくれた。とてもありがたかった。得られた測定データは、講座や講演会等で公表してきた。講演会参加者からは「実測データを示して説明してくれることの信頼性は大きい」との声もあり、あらためて、実測データの重みとそれを公開することの重要性というものを感じた。

 5月になり、測定場所として優先すべきは子どもたちが集う園庭や校庭であろう、という考えの下に立ち上がったのは、本学の同窓会放射線部(小材幸二代表)と群馬県教育委員会であった。そして、私のところにはその測定に関する監修依頼が届いた。県内に1300カ所以上ある全幼・保育園(所)、小・中・高等学校の園庭または校庭において放射線測定を行うというのは、多くの人員と労力、そして各施設関係者のご理解も必要となる。実際に動こうとするとさまざまな不安や問題が頭をよぎったが、考え込んでいる時間はなかった。

 まずは人員確保から始まった。道具が手に入ってもそれを動かす人がいなければ事が始まらないのは自明の理だ。休日を返上して県民のためにボランティアで放射線測定に回ってくれる人たちがいるだろうか? しかし、そんな思いは杞きゆう憂にすぎなかった。小材代表の一声で、本学の同窓生や学生ら約20人が快く賛同してくれた。続いて、県の健康福祉部から「幼稚園および保育所の測定体制を整えたので、測定担当者全員に対して放射線の簡易測定方法についての講習会を開催してほしい」との依頼が入った。

 多くの賛同者のおかげで、計画から約1カ月半後には全測定が終了し、その測定結果は新聞記事で公表された。統一された簡易測定器と測定手法を用いて全園庭および校庭の測定を実施したのは、おそらく関東地方では群馬県が最初であっただろう。

 結果公表後、数値だけが独り歩きをしてしまい、不必要に住民の不安を助長してしまうこともあったが、真実を隠さずに公表することが、最終的には信頼関係を強くすると信じている。






(上毛新聞 2012年6月6日掲載)