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醤油販売の伝統デザイン工房社長  高橋 万太郎 (前橋市文京町)



【略歴】前橋高―立命館大卒業後、キーエンス入社。退社後、2007年に伝統デザイン工房を設立した。「職人醤油」のブランドで全国の老舗の醤油を販売する。


醤油を選ぶ基準



◎造り手の魅力に触れる



 「どのような基準で醤しょうゆ油を選んでいるのですか」と質問をいただくことがあります。店内に並ぶ70種類以上の醤油を前に、製造元には行ったことがあるのかと問われ、「当然全て製造現場まで見ています。300軒以上は訪問していると思います」と答えると、その中からどのように選んでいるのかと尋ねられるのです。最初の訪問は5年ほど前になりますが、当時は付加価値の高そうな醤油を中心に選べば良いと考えていました。創業200年という老舗の看板だったり、昔ながらの木桶おけで仕込みという希少性、国産原料へのこだわりなどの特徴です。ただ、それらの基準は机上の論理でしかないことに気づくようになったのです。

 例えば「国産丸大豆」と表記されている醤油は比較的高い価格で販売されていると思います。原料の仕入れコストが高いので当然なのですが、造り手に「どうして国産の原料を使うのですか」と質問をすると答えはさまざまです。自分たちの目の届く範囲のものを使いたいという意見や、地元の1次産業を支えるのが当然だという意見。その方が高く売れるからという意見もあります。一方で、「数年間試作をした結果、自分たちの造り方であれば味の差はさほどない。そうであれば販売価格を安くする方がよいでしょう」という造り手もいます。決して、輸入原料が良いということを主張したいのではなく、国産の原料かどうかの基準だけで醤油のおいしさや品質を区別することはできないと感じたのです。

 「醤油造りのこだわりは何ですか」と質問をすると「そんなもんないよ」という返答がほとんどです。職人と呼ばれるような造り手はシャイな方が多いように感じています。ただ、製造現場を見せていただくと設備の配置や種類、作業工程などがわずかに異なります。その違いの理由を尋ねると「ここの工程が重要だと思うんよ。だから、短時間で次の工程にもっていくために…」という答えや、「本来なら建物を改築した方が効率が良いとは分かっている。ただ、この柱や梁はりにすみ着く微生物がうちの醤油作りには不可欠な存在だから、手を加えられないんだ」など、それって十分こだわりですよとツッコミを入れたくなる答えが返ってきます。

 冒頭のどのような基準で選んでいるのかは、「人で選んでいます」が現時点での私の答えです。醤油が本当に好きだという造り手もいれば、お客さまとの交流が第一だから工場見学大歓迎という造り手、製造工程に徹底的に工夫と改良を施している造り手など、こだわりポイントはそれぞれなのですが、製造現場と話の内容が一致している時はこちらも楽しい気分になってきます。「あぁ、この人たちとずっとお付き合いをしていきたいな」と感じる造り手の醤油は決まってお客さまの反応が良いのです。





(上毛新聞 2012年6月13日掲載)