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視点 オピニオン21
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群馬パース大学長  小林 功 (前橋市三俣町)



【略歴】渋川高、群馬大 医学部卒。同大学院修了。医学部附属病院長など歴任、2005年から現職。群馬大名誉教授。歌誌「地表」同人。10年度県文学賞(短歌部門)受賞。


大学全入時代に思う



◎社会に必要な人間に



 近年、大学全入時代と言われている。多くの若い世代が大学に入学できる時代になったのである。

 1992年に約205万人とピークを迎えた18歳人口は年々減少し、2008年には124万人となり、現在も同様な傾向が続いている。一方、国公私立大学の数は、92年に523校あったものが、08年に765校に増加している。大学の新設、学部・学科の改組や増設により受験生の選択肢は確実に増えたのである。

 その結果、18歳人口の減少や景気の低迷を受けて、特に私立大学の経営は厳しさを増している。特色ある大学のアイデンティティーが要求される。10年度の全国の四年制私立大学584校の約4割にあたる223校が定員割れしたとの報道がある。経営悪化を理由に募集停止に陥るところも出始めているのである。

 大学は大衆化の時代に入ったと言われて久しい。大学間の格差も激しくなった。学力による偏差値重視の傾向が見られ、幼稚園から塾通い、そして小学校、中学校、高校へとエスカレートした。

 やがて、文部科学省は「ゆとり教育」なる方針を打ち出し、多彩な人材育成を期待されるようになった。

 大学の入試制度も、AO入試、推薦入試等も導入された。AO・推薦入学者が私立大学では約半数を占めていると言われる。

 そこで学生の質が問われることになる。

 私の属している医療系大学は卒業後、国家試験にパスして初めて看護師、保健師、理学療法士になる。従って入学当初から、広範囲なカリキュラムが用意されている。

 多くの学生諸君の中には、時に「進路変更」を余儀なくされる者も出てくる。解剖学、生理学、生化学と基礎医学的な段階で「興味が持てなくなった」「こんなはずではなかった」と大学を去るのである。誠に残念なことである。医療系大学は将来「生命」を取り扱う貴い使命を持つ医療人養成機関である。

 私たちの学生時代は貧しかった。奨学金と家庭教師のアルバイトで学資を得た。解剖学の先生が「そして…」と言ったら、ノートに「そして…」と書くぐらいの真剣さが要求された。教科書も今のような立派なものはなく、小さい参考書で何とかクリアしたものである。一方、今の学生は恵まれている

 過日、1年生を引率して、ハワイ大学研修旅行に行った。学生は卒業後の資格取得のために夏休みも返上で勉学に励んでいることを聞かされた。 世界はいまグローバル化の時代に突入した。最近、文部科学省は「高校早期卒業制」導入を検討しているという。

 提言を一つ。若い諸君よ、しっかりしたモチベーションを持って、学び、社会に必要とされる人間になってほしい。






(上毛新聞 2012年6月15日掲載)