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前橋地裁所長  三好 幹夫 (前橋市大手町)



【略歴】鳥取県米子市出身。名大院修了、1975年に司法試験合格。最高裁調査官、司法研修所教官、東京地裁刑事所長代行者などを経て2011年5月から現職。


裁判員制度3年



◎まず運用改善に全力を



 先月21日で裁判員制度施行後3年が経過しました。参加された皆さまの高い意識に支えられ、市民参加という点では順調に推移しています。県内では、同日までに合計1929人の方が候補者として前橋地裁までお越しになり、うち378人の方が67件の裁判員裁判に裁判員として参加されました。呼び出した候補者の出席率は、全国平均よりも少し高く、約80・9%に達しており、誠実な県民性が反映されたものと思っております。その熱意にあらためて敬意を表するとともに、厚く御礼申し上げます。

 裁判員裁判の結果は、一部には既に従来の裁判とは異なる傾向が現れてきているようです。例えば量刑について、覚せい剤犯罪のように大きな変化のないものもありますが、性犯罪において実刑の量刑が重い方にシフトする傾向がある一方、殺人、傷害致死等において執行猶予の比率が上昇する傾向が見られます。性犯罪の厳罰化を支持する意見もあるようですが、今後の世論の受け止め方を注意深く見守りたいと思っております。

 やはり気になるのは、審理の内容です。全国の裁判員経験者に対するアンケート結果を見ると、2009年には70・9%の人が理解しやすかったと回答しましたが、その割合は次第に減少し、本年は59・9%まで低下しています。また、法廷での説明が分かりやすいと答えた人の割合も年々減少し、09年から本年にかけて、検察官の説明が80%台から61・7%に、弁護人は49%台から35・6%にいずれも大幅に減少してきています。

 審理内容が理解しにくいものとなれば、裁判員が評議で意見を述べることは容易ではなくなります。アンケートでは、審理内容が理解しやすいほど評議の充実度に対する評価が高くなる傾向がありますので、このまま理解のしやすさが低下すれば、満足度も低下し、充実した評議が困難になることが懸念されます。

 国民の参加意欲の高さと比較して、法曹の側に責任のあるこの現状は、法曹3者に大いに反省を迫るものがあります。法改正も話題になっていますが、運用の任に当たる法曹は、この結果を深刻に受け止め、まずもって運用の改善に全力を傾けることこそが肝要であると思っています。

 裁判員裁判は、世間の高い評価を受けているものの、調書裁判からの脱却を目指していたはずの公判は、法廷のやりとりで心証を形成するという理想から次第に遠ざかって調書を読み上げるだけのものとなり、当事者のポイントを突いた尋問により生き生きとした真実が明らかにされるはずであった法廷は、捜査書類の引き直しのための尋問の場となっているように感じます。現状を改める取り組みを急がなければならないと思っています。






(上毛新聞 2012年6月24日掲載)