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帝国データバンク太田支店長  西村 泰典 (太田市飯田町)



【略歴】宮城県塩釜市生まれ、東京都大田区育ち。神奈川大卒業後、帝国データバンク入社。業務部や人事部、調査部、広島支店情報部長などを経て2011年3月から現職。


選別強化



◎経営環境の厳しさ増す



 自動車業界が元気だ。富士重工業も新型インプレッサは秋ごろ、スポーツカーのBRZは年明けまで納車待ちの状態が続くなど、注文に生産が追いつかないらしい。当地の部品メーカーからもうれしい悲鳴が聞こえてくるほどだ。

 もっとも円高の影響は思いのほか深刻で、完成車メーカーの利益水準を押し下げる大きな要因となっている。富士重工業でも円高のダメージを少しでも軽減すべく、部品の海外調達比率を高める動きが本格化している。下請け先には増産体制の要請と併行して、それなりのコストダウン要請も来ているらしい。

 各社とも海外の部品調達チームを新設したり、増員するなどして新たな取引先を発掘する動きが加速している。弊社にも中国や韓国はもとより、タイ、インドネシア、マレーシアなど、海外企業の信用調査依頼が例年になく増えている。より安い物を海外へという流れの中で、国内産業の一層の空洞化は避けられない情勢だ。

 一見好調に見える自動車業界でも円高を契機とした取引先の選別強化が進んでおり、中小企業を取り巻く環境は、むしろ厳しさが増しているように見える。

 さらに、資金の出し手である金融機関にも気になる動きがある。メガバンクを中心に、来年3月の決算へ向けて、各行とも不良債権処理のための引当金を積み増す動きがあることだ。

 これは来春まで延長された中小企業金融円滑化法の出口戦略をにらんでの対応とみられることから、金融機関による融資先の選別強化がいよいよ本格化することになる。同制度を利用して特別な資金繰り支援を受けている企業にとっては、死活問題ともなりかねないだけに、不測の事態に備え、今まで以上に得意先や外注先の情報収集に努めることが重要だ。法案成立後は比較的落ち着いていた企業倒産は、残念ながら増加に転じることになりそうだ。

 そんな中、国は莫ばくだい大な借金や急増する社会保障費などを捻出するため課税強化へ向け大きくかじを切り始めた。消費税増税の議論に隠れているが、4月から各種保険料の負担金が増加したほか、6月からは子育て世代の住民税が大幅に増加する。また、電力料金の値上げや復興需要などに端を発する人手不足により、人件費も上昇機運が高まっており、企業経営の足下ではコスト上昇の波が次から次へと押し寄せている。

 妙薬はないが、少なくとも今度の給与明細をつぶさに見れば社員全員であらためて危機意識を共有することはできそうだ。現状を正しく認識し、皆で知恵を出し合い行動することが必要だ。





(上毛新聞 2012年6月27日掲載)