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視点 オピニオン21
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新島学園中学・高校校長  市川 平治 (高崎市倉渕町)



【略歴】東京農工大大学院修了。14年間の県立高校教諭を経て、家業の林業経営。旧倉渕村議を12年間務め、2002年から4年間、最後の旧倉渕村長。07年から現職。


山の民・海の民



◎自然の恵み互いに学習



 2006(平成18)年1月18日、千葉県浦安市において、倉渕村と浦安市との「倉渕村有林における森林整備等の活動に関する協定書」の調印式が行われた。

 このような、自治体間の友好協定は、よくある話で別に珍しいことではない。

 しかし、その5日後、1月23日をもって倉渕村という自治体は消滅し、新高崎市の一地域となったのである。

 もちろん、5日後に倉渕村がなくなることは、相互に承知の上であり、高崎市との合併協議でも、その契約は新高崎市に承継されることが確認されてはいたが、やはり、この歴史的な時期での調印には感慨深いものがあった。

 この協定は、1年ほど前から、都市・山村と、利根川水系の上下流交流を目的に、両市村で協議を重ねてきたものであるが、「どうしても、倉渕村との名において調印したい」という、浦安の松崎市長の強い希望により、合併直前の駆け込み調印式となった次第である。

 利根川を介して、最上流部に近い烏川の水源と、最下流部の江戸川河口という、一筋の水系によってつながる両地域の交流の意義を、私は調印式の挨あいさつ拶の中で「海の民と、山の民の交流は日本文化の原点である」という言葉で表現した。「山の民・倉渕」の名を残すことによって、「海の民・浦安」との交流の意義を明確に示すことができたのである。

 このように、特別な思いをもって結ばれた倉渕と浦安は、立地・自然環境・歴史・人口密度・産業・インフラ・その他諸々、際立って対照的な特徴を持っている。しかし逆に、相互の特質の差が大きいほど、足らざる部分を補完し合うことで、交流の効果は大きくなるともいえよう。

 毎年の夏休み、倉渕地域の小学生が浦安を訪れ、東京湾の干潟での自然観察や水族館見学等で海の恵みを学習し、一方、大勢の浦安の小学生が「はまゆう山荘」や「わらび平森林公園」を拠点として林間学校を楽しみ、二度上峠からの浅間山の眺望に歓声をあげている。また、浦安の市民グループは、はまゆう山荘の周辺に設定された「浦安市民水源の森」で、地元の人々や学生の協力のもとに森林整備に汗を流している。

 平成の大合併により、北関東屈指の中核都市となった新高崎市は、商業・交通の要衝として、大きな役割を担うと共に、首都圏の水源を擁する森林都市としての一面も併せ持つことになった。従来の都市政策に加えて、森林政策のさらなる充実を期待したい。

 結びに、東日本大震災で大きな被害を受けた浦安市の一日も早い復興と、今年の夏も浦安の子どもたちの笑い声が水源の森に響くことを心から祈りたい。







(上毛新聞 2012年6月30日掲載)