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視点 オピニオン21
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元・東北大大学院助教授  高橋 かず子 (甘楽町小幡)



【略歴】東北大大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。東北大で機能性有機化合物の開発研究に取り組む。1997年から甘楽町のかんらふるさと大使。


日本のものづくり



◎若者よ理工系を目指せ



 最近のユーロ圏の経済危機を発端に、世界の国々の国力が問われておりますが、日本の国力は果たして安心できる状態なのでしょうか。日本には石油、石炭やレアメタルなどの天然資源がありません。このような日本が将来、発展するためには、科学や科学技術のレベルを高め、日本でしかつくれない、付加価値の高い製品をつくって、世界に売り出す以外に、国力を高める道はないと思われます。

 確かに、スパコン「京」が昨年、計算速度で世界一になり、太陽光発電の単結晶シリコンモジュールの優れた製造技術や高品質の化成品、次世代自動車の開発など、日本が世界に誇れるものは多いものの、韓国や中国は日本の科学技術を目指して、国家戦略として、日本に追いつけ、追い越せと必死の努力をしているのです。日本はこれらの国々に追いつかれる前に、さらに高い技術を開発して、トップランナーとしての地位を維持していかねばなりません。従って、大学や企業における科学者や科学技術者の使命と責任は国家的見地から見ても極めて重大です。特に、次世代を担う若い優秀な科学者や科学技術者の養成が不可欠な状況なのです。

 しかしながら、東日本大震災や原発事故の影響で、若者が理工系は魅力的でないと考えるとしたら、それは大きな間違いです。

 私は以上の理由で、多くの若者の皆さんに、今こそ、理工系に進んで、日本のものづくりの最先端の技術開発に大いに貢献してもらいたいと思います。

 確かに、理工系は基礎的で、体系的な知識や技術の習得などを積み重ねる必要があり、1、2年で、すぐに報われることはありません。しかし、若いころに多少、苦労しても、しっかりした基礎的な実力を身につけておくことは、将来の大きな成果につながりますし、問題を自主的に解決する能力が身に付きますので、単に科学者や科学技術者としてだけでなく、人間として大きく成長することができます。私は有機化学が専門で、分子レベルで、新しい機能性有機分子の設計、合成、構造、機能の研究に取り組んできました。この分野はアカデミックと産業が結びつきやすく、学問の最先端が即、企業や事業につながりやすい分野ですので、非常にやりがいがあります。さらに、科学の面白さは意外性にあり、予想もしなかった驚きの発見をしたときの喜びは非常に大きく、また、次の研究課題に挑む意欲が湧いてきます。有機化学の分野におけるわが国の学問的水準は非常に高く、既に5人の日本人がノーベル化学賞を受賞しております。

 政府も国家戦略として、科学技術振興費や若手科学技術者の養成のための費用として、多額の予算を注ぎ込み、日本のものづくりの基礎基盤を揺るぎなきものにしたいという方針を示しています。







(上毛新聞 2012年7月2日掲載)