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視点 オピニオン21
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作曲・編曲家  福嶋 頼秀 (東京都板橋区)



【略歴】前橋市出身。前橋高、慶応大卒。会社員を経て、作曲・編曲家として活動を開始。オーケストラや和楽器の作品を多数発表。演奏会の企画・司会も手掛ける。


詩人のメッセージ



◎生きる姿勢を映し出す



 トロッコ列車で有名なわたらせ渓谷鉄道の神戸(ごうど)駅。そこからバスで約10分の草木湖のほとりに、近代的なデザインの富弘美術館があります。ここには郷土が誇るべき星野富弘さんが書いた詩画が、多数展示されています。星野さんの半生を紹介したビデオなども見ることができ、自然に囲まれた落ち着いた環境の中で、星野さんの作品や人柄とじっくり向き合うことができます。

 星野さんは高校・大学時代、器械体操や登山に積極的に取り組む学生だったそうです。卒業後、中学校の体育教師になりますが、体操の指導中の事故で手足の自由を失ってしまいます。それがどれほどつらい出来事であったのかは、想像に難くありません。9年間の入院中、星野さんは口に筆をくわえて、文や絵を書くようになります。最初はお見舞いにもらった花などを描いたそうです。口で筆を動かすことは肉体的にものすごく大変で、時間もとてつもなくかかります。そうして描かれた花の絵には、こんな気持ちが込められているのではないでしょうか。「(自分は今、野に咲く花を屋外で見ることはできないが)お見舞いに来て花をプレゼントしてくれて、どうもありがとう。花って本当に、本当にきれいだね」

 星野さんは今年、NHK全国学校音楽コンクールの高等学校の部の課題曲を作詞しました。このコンクールは毎年夏から秋に開催され、全国の2千を超す学校の合唱クラブなどが参加します。星野さんが作詞した『明日へ続く道』と『もう一度』という詩から、「困難な時でも、志を高くもって」という若い人たちへのメッセージを読み取るのは、私だけではないでしょう。

 さて、同じコンクールの小学校の部の課題曲を作詞したのは遊佐未森(ゆさ・みもり)さん。遊佐さんは作詞・作曲だけでなく、ご自身もコンサートで歌われるのですが、私は彼女の歌から心温まるメッセージをいつも感じます。遊佐さんに作詞をする時のこだわりを聞きました。「声に出して歌った時、その曲の世界を自然に体感できるようなもの…歌う人の声質などに合わせて、選ぶ言葉を変えることもあります。それから悲しい内容だったとしても、どこかに“希望”を見いだせるものでありたいですね」

 遊佐さんは仙台市出身で、東日本大震災後、たくさんの復興支援コンサートに出演されています。そして日々、音楽の使命を感じ、「誰かの心にそっと寄り添う歌を届けたい」という思いを強くしました。コンクールの課題曲『希望のひかり』には、「歌ってくれた子どもの心にひかりがともり、街を明るく照らし出す。そしてたくさんの街で歌われた時、日本中が明るくなる」―そんな願いが込められているそうです。詩人が選んだ言葉とその人の生きる姿勢は、切り離して考えられないのです。







(上毛新聞 2012年7月3日掲載)