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視点 オピニオン21
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仏師  関 侊雲 (前橋市六供町)


【略歴】農大二高卒業後、富山県南砺市の仏師、斉藤侊琳さんに弟子入り。10カ所で教室を開設。著書に『彫刻刀で作る仏像』(スタジオタッククリエイティブ)など。


人生を有意義に



◎先人から素直に学ぼう



 仏師の道に入り18年になりますが、その間にしっかりと気づかされたことがあります。それは昔の日本人の方々が大変優れた知識と技術を持ち、それに伴う行動力で素晴らしい遺産を今に伝えているということです。この道に入る以前にも昔の建造物などへの驚きはありましたが、仏像の制作や古い仏像の修復など、実際に昔の技術に携わることで、その技術の高さを日を追うごとに実感し、驚かされています。

 現代と違い、自動車などもない時代にどのように材木を運んだのか、その労力や危険度は想像がつかないほど大変だったに違いありません。また、電気道具がない中で木を製材するためには、全て手作業で木を切り平らにしていくわけですから、その技術の習得と気が遠くなるような作業の繰り返しは、私には理解できないほどの厳しさがあったと思います。

 今では機械のスイッチひとつで間単にできてしまうようなことを大変苦労して行っていたわけですから、そこにあらゆる発想や工夫が生まれ、驚くほど高度な技術へと発展したのだと思います。これからも先人の残された偉大な技術から多くのことを学んでいきたいと思っています。

 世界的にご活躍の写真家、ハービー・山口さんとご縁があり、お話しさせていただいた際に「仏師はのみを使い木に彫刻していますが、人は時間をかけて自身の顔に彫刻しているのですね」という素晴らしいお言葉をいただきました。年を重ねた際、顔にその人の人生がにじみ出てくるということだと理解しています。

 私がまだ20代のころ、銭湯で80代ぐらいの男性に声をかけられたことがありました。男性は私を見て「いいな」と何度も繰り返されました。私がなぜかと尋ねたところ「若くていいな」と言われました。その時は何気なく考えていましたが、数年後、お世話になっていた70代男性から「若いうちは志をしっかりと持って全力で挑戦しなさい。年をとってから後悔しても遅いよ。私なんかやっておけばよかったと思うことがたくさんあるから」と教えていただきました。その男性は数カ月後に亡くなられました。恐らく自身の余命をご存じの上で私に諭されたのだと思います。そんな中、以前の銭湯の男性のことが思い出され、その言われた意味も理解できました。

 私は今までの人生で大勢の方々にお世話になり、ここまで歩んで来ることができました。特に若い時代に目上の方々から学んだ教訓は、後に大変重要なものとなりました。時代が変わっていく中、歴史も人の人生も同じような課題を繰り返しているように思えます。ですから、人生も技術も先人の方々から素直に学ぶことが、これから未来に向かう人たちにとって最も有意義で良い方法ではないでしょうか。







(上毛新聞 2012年7月5日掲載)