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県立自然史博物館学芸員  姉崎 智子 (富岡市上黒岩)


【略歴】神奈川県出身。慶応大大学院博士課程修了。史学博士。京都大霊長類研究所研究員などを経て、2005年4月から現職。専門は野生動物の保護管理。


導きの人



◎人生の歩み変えた言葉



 「NATOになるなよ、お嬢ちゃん」。彼の命日が近づくと、いつも思い出す言葉です。彼、とは、私たち家族の大切な友人マーカスさん。シカゴに住んでいたころ、右も左も分からない私たち家族を、いつも助けてくれた方でした。

 「NATO」。初めて聞いたとき、「北大西洋条約機構になるな」って、変なことを言う人だな、と、まじめに思っていました。そのうち、その言葉を言われるタイミングには、あるパターンがあることに気がつきました。どうも違う意味があるらしい…。恥ずかしながら、ある時、思い切って言葉の意味を聞いたところ、彼はニヤリと一言、「No Action Talk Onlyさ」。つまり「口先だけの人間になるなよ」と、繰り返し言われていたのです。当時の私は12歳。物事を知らないとは、恐ろしいことです。以来、自分の発言に気をつけ、有言実行を心がけるようになりました。

 思い返してみると、これまでの長い道のりの中で、人生の節目、節目に「導きの人」と出会い、その後の歩みを大きく変える大切な言葉をいただいてきたように思います。

 大学院に進学することが決まった時、大学の恩師から「大人になっても、ちゃんと真剣にしかってくれる人を、少なくとも3人は確保した方がいいよ」「100%じゃ不十分。常に120%でがんばり続けないと失速するよ。でも、200%だとダウンするからダメだよ」、そして「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから」(マザー・テレサの言葉)という言葉をいただきました。

 よっぽどふがいない学生だったのでしょう。実際、恩師には「誰かに世話になったり、誰かに迷惑をかけたりしたら、必ず私に報告するように。私が頭を下げるのだから」。そして、先輩方には「まず、自分が間違っていることを認めてから話をしろ」と、よくしかられました。

 その恩師も数年前に他界し、年を重ねるごとに「導きの人」を失うことが多くなってきました。とはいえ、新たな出会いも多く、なかでも、博物館のさまざまな活動を通して出会う子どもたちの存在は、大きな「導き手」になっています。彼らの純粋な興味や疑問、あくなき探求心、真っすぐな心。喧けんそう噪の日々の中で、どこかに置き忘れてきてしまった大切なことを彼らは思い起こさせてくれます。

 彼らに自分の背中をみせても恥ずかしくない人間となるために、日々、自分を律しながら精進していきたいと思っています。







(上毛新聞 2012年7月6日掲載)