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視点 オピニオン21
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iikarakan/片品生活塾主宰  桐山 三智子 (片品村菅沼)


【略歴】横浜市生まれ。東京都内の雑貨店勤務後、田舎暮らしを求めて2005年に片品村に移住。自然農法に取り組み、炭アクセサリー作家としても活動する。


住居になった廃屋



◎“暮らしの文化財”今に



 今にも壊れてしまいそうな古民家や作業小屋、荷物置き場になって忘れ去られたような建物に、なぜか惹かれる。先人たちが暮らしやすいように工夫し、手を入れ造ってきたのであろう。それぞれがユニークで趣があって、村の景観にとてもマッチしている。

 注意して見ると、村中あちこちにそんな魅力的な建物がひっそりと佇(たたず)んでいる。「この建物どうするのですか?」と聞くと、大抵の人が「壊すのに費用がかかるから、壊れるのを待つだけ」という。なんとももったいない。古い建物は先人たちがどんな暮らしを営んできたのかを知る重要な文化財ではないかと私は思う。そんな建物を修復し、住居にできないだろうか。

 そもそも都会育ちの私にとって「家」とは買うもの、借りるものとしか思っていなかった。そんな私の価値観を覆してくれたのは、村で最初にできた友人だった。引っ越しの手伝いに行ったところ、引っ越し先の古民家の壁をぶち抜いている友人の姿が。荷物を詰める手伝いだと思っていた私は、そこで初めて漆喰(しっくい)を塗り、床に板を張る作業を手伝った。「家」とは自分たちが暮らしやすいように考え、手を入れ、造っていくものであると知った。

 最近では同じような新しい家が増えてきているが、「自然に寄り添う暮らし」を実践する私たちには、古い建物を修復し住居にする方が合っているのではないか。そんなとき出合ったのが廃屋と化した牛小屋。雨戸にはキツツキが丸い穴を開け、何ともかわいらしい。青空が見えるような建物だったが、修復してここに住みたい! 地主さんや、同じように廃屋を修復して住居にしている建築士の方、村の大工さんの協力を得て、2年がかりで廃屋の牛小屋は私たちのライフスタイルに合ったおしゃれで快適、立派な住居になった。

 廃材、建具、トイレ、お風呂なども村の方が使っていなかったものを譲っていただき再利用。廃材の掃除などは地元の高校生や都会の若者が手伝ってくれ、ほぼリサイクルで材料をそろえることができた。一つ一つに物語が詰まっている。「あの牛小屋が使い物になるの?」と言っていた地主さんだったが、完成した家を見て「ご先祖さまが喜ぶよ。まさか牛小屋がこんなふうになるとは。あそこに牛がいて、小さいころは牛に餌をやって…」と目を輝かせ昔の話をしてくれた。

 「ただ壊れるのを待つだけ」だった牛小屋が今では誇らしく建っているように見える。提供してくださった地主さんに感謝している。「ただ壊れるのを待つだけ」の建物があっても、修復し自由に使っていいと言ってくれる人はなかなかいない。本当に壊れてしまってからでは遅い。暮らしの文化財である古い建物を今に生かすことは文化の伝承の一つと言えるのではないだろうか。







(上毛新聞 2012年7月11日掲載)