,

視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
高崎健康福祉大教授  入沢 孝一 (前橋市関根町)


【略歴】渋川高、中京大体育学部卒。嬬恋西中、嬬恋高をスケートの強豪校に育てた。日本代表コーチ・監督も務め、黒岩彰、黒岩敏幸を五輪でメダリストへと導いた。


フェアプレーの精神



◎ルール尊重相手を尊敬



 昨年、日本体育協会は創立100周年記念式典の中で「スポーツ宣言日本~21世紀におけるスポーツの使命~」を発表しました。100年後の子どもたちに引き継ぐものを残すことを目的に、スポーツの果たす役割として三つの提言をしています。その一つに「フェアプレーの精神を広め深めていく」ことをうたっています。フェアプレーの精神とは「同条件で競うことが面白い」という考え方や「スポーツはルールを守る遵じゅん法の心によって成立する」という考え方が背景となっています。従って、スポーツは万人に対してスタート地点で平等であり、結果が出るまでの過程を自己責任で努力・精進し、競技が終了するとノーサイドとしてスタート時に戻ることが前提となっています。

 また、当然ながらフェアプレーの精神には「相手を尊敬・尊重する」行為・行動が伴います。日本を背負っていく青少年を育成する上で、「ルールを守る、お互いを尊敬・尊重する」ことがスポーツの持っている基本的な価値であることを再認識し、積極的なイニシアチブを取って社会に働きかけていこうと宣言したことに大きな意義があります。

 私は高崎健康福祉大学のスケート部を発足するに当たり、部のルールを示しませんでした。スピードスケートを通じてどのような人間力を持った学生を育てるかを考えたとき、上から与えるルールは必要ないと考えたからです。とはいえ、毎日の行動の中では、ある程度の決め事がないとうまくいかないことが多々生じてきます。そのたびに学生たちは「どうする」と相談しています。そんな時、私がしたのは「目標は何?」と問いかけることでした。今、学生たちは目標を達成するために必要な決めごとを少しずつ積み重ねてきています。私は、本人に当事者意識がないとルールの順守はできないと痛感してきました。また、「決めたことは尊重する」という精神を学生に伝えたい意図もありました。つまり「ルールは上から与えられるもの、ルールを守らないと罰を与える」というスポーツ文化はつくりたくないと考えています。スポーツをする人には「ルールは自分たちが競技をするために作られている」という当事者意識を持って参加する覚悟が求められます。

 黒岩彰選手はオリンピックで銅メダルを獲得した直後、「(金メダルを取った)マイには心から感謝し、おめでとうという気持ちが素直に出てきました。彼の4年間の過程は自分が一番よく知っていますから」と言いました。黒岩選手の心に相手を尊敬する精神が養われたことに感動したのを思い出します。ルールを尊重し、相手を尊敬するフェアプレーの精神を青少年の心に培うことがスポーツの役割と宣言したことを重く受け止めたい。ロンドンオリンピックもそのような視点で見たいものです。





(上毛新聞 2012年7月12日掲載)