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視点 オピニオン21
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現代芸術家  中島 佑太 (前橋市関根町)


【略歴】前橋市出身。中央高、東京芸術大美術学部卒。東京を拠点に活動後、2010年冬から前橋を拠点に、全国各地で地域と関わるアート活動を展開している。


金づちで絵を描く



◎「どうなる?」を面白がる



 最近、前橋の清心幼稚園の子どもたちと、お絵描きをしたり、工作をしたり、天井からいろいろ吊(つ)るしたり、床に絵で描いた線路を張り巡らせたりして遊んでいる。清心幼稚園は、自由保育を取り入れていて、幼稚園に来た子どもたちは、その日何をするかを自分で決めて自由に過ごす。時々危なっかしいこともあるけれども、どうしたら安全にみんなで楽しく過ごせるのかを、その都度子どもたち同士で考えて答えを出すのが幼稚園のスタイルだ。

 幼稚園で僕は、子どもたちの「こういうの作りたい!」という気持ちが形になるよう、お手伝いをしつつ一緒に遊んでいる。アトリエと呼ばれるコーナーでは、絵を描いている子の隣で、木にくぎを打ち込んでいる子がいるという風景も珍しくない。ある日、年中さんの女の子が、アトリエコーナーで大きな紙に絵を描いていた。その子の隣では、例に習い、木にくぎを打つ子どもたち。子どもたちは、お友達が使っている道具やおもちゃを、自分も使いたがる。絵を描いていたその女の子もやはり「金づちを使いたい」と言いだした。絵を描いているのに? と思ったけれど、その子と話し合った結果、金づちを使ってみることになった。すると、描いていた紙を金づちでたたき始めるではないか。

 最初は少し驚いたけど、見守ることに。だんだんと傷付いて穴があいていく画用紙、塗りたての絵の具の上をたたき、その金づちでまたたたき、広がっていく絵の具。

 いつも気になるのは、子どもたちにとって絵を描くことは、表現行為というよりも遊びとしてのアクションという意味合いの方が強いと感じること。そこで「金づちに絵の具つけてみたら」と言ってみた。すると意外にも「え、いいの?」と聞き返してくる。確かに、金づちはくぎをたたくための道具としてデザインされたもので、絵の具をつけて描く道具ではないけど、それはルールではない。

 金づちに絵の具をつけ、ガン! ガン! ガン! と紙をたたく。絵の具が紙の上でも混じり合い、紙が金づちによって破れていく。ボロボロに破れたところはカラフルで面白い風合いになっていた。

 幼稚園では「どうなるか分からないを面白がる」気持ちを大事にしている。金づちに絵の具を塗ってはいけない、と言うのは簡単だ。金づちを筆の代わりに使ってみたら、どんな絵が生まれるだろう? どんな出来事が起こるだろう? そんな想像が面白いことを生みだしていく。大事なのはルールを破ることではなく、思い込んだ決まりごとを取り払ってあげることだ。

 ※ちなみに金づちはみんなで使うものなので、あとできれいに洗いました。






(上毛新聞 2012年7月20日掲載)