,

視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
日中緑化交流基金首席研究員  長島 成和 (前橋市下細井町)


【略歴】長野県生まれ。林野庁前橋営林局(現関東森林管理局)、日本森林技術協会を経て、興林に勤務。第2次奥利根地域学術調査隊員。林業技士。専門は森林土壌。


中国緑化報告(5)



◎年800万ヘクタールの人工林造成



 中国は今、過去に積極的に推進してきた国土の農地化や過ぎたる放牧地の造成などを見直し、森林造成に力を注いでいる。

 人工的に植林して林が造られたものを人工林と言うが、中国では年間約700万~800万ヘクタール造成している。日本とは状況が違うので、単純な数値による比較は異論を呼びそうであるが、日本では半世紀の時を費やし約1千万ヘクタールのスギやヒノキ、カラマツなどの人工林を造成してきた。中国はそれを1年から2年の間に造成している。この規模には大きな驚きを持つ。それほど必要に迫られているということでもある。

 中国の林業関係機関が定めている森林区分は、生態林と経済林がある。生態林とはニセアカシア、マツ類、コノテガシワ、ポプラ、ヤナギ類等で日本のスギやヒノキ等の木材生産を目的とした林に相当する。経済林とはリンゴ、ミカン、クルミ、アンズ等果実の収穫を目指す林である(日本では果樹園として森林には含まれない)。中国と日本ではその扱いに大きな違いがある。しかし、経済林をむやみに造成しているのではなく、立地条件を見極めるなど、その規模は生態林造成に比べて極めて小さい。

 造林方法も日本とは違った方法がとられている。人の背丈を超える大きな苗木を植えることが結構目立つ。1本の苗木を数人掛かりで植えるのである。「早く大きくなるから」という。また、植樹の際には地拵(ごしら)え等幾つかの作業があるが、日本では刈払機、植穴掘機等の機械化を進め、作業効率を高めている。中国でも機械化は進みつつあり、中国政府も近い将来、積極的に導入を考えているようであるが、いまだ人力に頼ることが多い。これも人口の多さを物語っていると言えよう。

 緑化事業は積極的に進められているが、苗木の生産が間に合わないことがある。苗木が数百キロも離れた苗畑から運ばれることがあり、同時に苗木の乾燥害が心配である。

 さて、近年、国際的に生物多様性について論じられている。これには種、遺伝子、生態系の多様性など難しい定義がある。少々粗い説明であるが、言い換えると「生物多様性とは、本来そこにあるべきもの(植物等)、いるべきもの(動物等)が、今日そして将来にわたって生存すること」である。長い歴史の中で破壊されてきた経過を踏まえ、自然環境の重要性に鑑み、保全や再生、復元を地球規模で行おうとするものである。

 中国も郷土種と言われる樹種を導入しながら緑化事業を進めている。しかし、潜在的な種を考えての造成には、少々時間が必要と考えられる。一度破壊されたものの復元等には時間がかかるが、まずは「緑化」の強い思いを理解してあげたい。






(上毛新聞 2012年7月22日掲載)