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視点 オピニオン21
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県民健康科学大准教授  杉野 雅人 (伊勢崎市連取町)


【略歴】愛知県出身。2000年博士(工学)取得。診療放射線技師、第一種放射線取扱主任者、医学物理士。環境放射線の研究を20年続け、10自 治体の放射線測定を監修。


放射線量の分布



◎車で走行しながら調査



 前回のコラムでは、群馬県内の全幼・保育園(所)および小・中・高等学校の園庭または校庭で行った放射線測定監修について述べた。引き続き、福島第1原子力発電所事故後における自身の活動について述べさせていただきたい。

 園庭や校庭の放射線レベルを確認し、公表したことは大変意義のあることだったと思う。しかし、それだけではまだ、住民の気持ちは落ち着かないであろうと感じていた。そこで、国道や主要県道を車で走行しながら群馬県内の放射線量を調査することとした。

 私が所属する学会では、この測定法をカーボーン・サーベイと呼び、環境中の放射線を短期間に調査する方法としてよく用いられている。カーボーン・サーベイにより、ちょうど昨年の今ごろ、7日間かけて全1475データを取得し、県内における放射線量の分布と傾向を把握した。

 1998年にも同様の手法で放射線調査を行ったことがあるが、そのころの群馬県の平均値(約0・03マイクロシーベルト毎時)と比べて、およそ3倍であった。場所によっては平均値の約10倍にあたる約0・3マイクロシーベルト毎時を示したところもあった。しかし、参考までに言うと、胸部のエックス線撮影を1回行うと約50マイクロシーベルトの放射線量を浴びる。航空機を利用してニューヨークまで往復すると約150マイクロシーベルト前後の放射線量を浴びることになる。上述した群馬県の環境放射線量がいかに少ないかが分かるであろう。

 また、現在までの疫学的調査によれば、10万マイクロシーベルトの放射線量を短期間に浴びると、がん死亡率が0・5%上昇すると報告されている。つまり、10万マイクロシーベルト以下の放射線量であれば、そのがん死亡率は見積もることができないくらい小さいものである。ちなみに私はお酒が好きであるが、国立がん研究センターの調べによると、毎日2合以上飲む人は、飲まない人の発がん率と比べて約1・4倍と見積もられている。これは、10万マイクロシーベルトを1回で浴びるよりもはるかに大きなリスクである。自治体主催の研修会や講演会等でこういった話をすると多かれ少なかれ笑い声が上がる。毎日、晩酌される方にとっては少々耳が痛い話なのであろう。

 昨年度、環境放射線に関する研修会や講演会を20回以上行った。実は最初のころ、演者である私はかなり緊張していた。そのため、体調を壊した日が多々あり、心と体が密接につながっていることを痛感した。群馬県の放射線量に対して不安を抱えている方がおられるようである。1人でも多くの不安を取り除けるよう、今後も実測データを公表しながら説明していきたい。






(上毛新聞 2012年7月23日掲載)