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視点 オピニオン21
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県自然環境調査研究会会員  谷畑 藤男 (高崎市竜見町)


【略歴】群馬大教育学部卒業後、理科教諭として千葉、群馬の小中学校に38年間勤務。日本野鳥の会、県自然保護連盟、県自然環境調査研究会などに所属。


消えゆくツバメ



◎街が変わり巣の数減る



 18世紀の百科事典「和漢三才図会」はツバメについて「大きさは雀ぐらいで身は長く、(略)春の社日に来て秋の社日に去る。村里にやって来ると泥をふくんで屋や ね宇の下に巣を作り、秋になって村里を去ると、気を伏して窟いわあな穴の中に蟄ちっきょ居する」と解説している。渡り鳥という認識はないが、ツバメが江戸時代より人家の軒下で繁殖していたことがわかる。

 ツバメは春南方より渡来し、初夏大量に発生する昆虫を空中で捕食する。古来、稲作中心の日本では、害虫から稲を守るツバメは大切にされた。ツバメが軒下に営巣するのは、人間の保護により、カラスなど外敵から卵やひなを守るためである。軒下に巣台を作り、ふんの始末をするなど、愛情を持って毎春ツバメを受け入れてきた家も多い。しかし最近では家が巣材の泥で汚れるため、ツバメの巣作りを嫌う人もいる。

 近年、全国的に身近なツバメが減少しているといわれている。本棚を探すと、倉賀野中学校の生徒たちと調べた「高崎市におけるツバメの営巣に関する研究(1987)」というレポートがあった。3カ所の調査地(2平方キロ)で巣探しを行い、地図に巣の位置をプロットした。調査地のひとつ高崎市街地には45個の巣があった。人家で繁殖するツバメは観察も容易で、小中学生が地域の自然を学ぶための良い教材にもなる。

 5月、ツバメの増減を確かめるため、巣探しを行った。25年前と同じ地域で、発見した巣は35個。約4分の3に減っていた。ツバメ調査を通して、街の変化も見えてくる。マンション・ホテル等、10階を超す高層ビルが増え、大通りから電柱や電線が消えた。また商店街にはシャッターの降りた店や駐車場が目立つ。かつてツバメが飛び交っていた大通りの交差点や商店街において減少が顕著である。25年前、約8割の巣が人の出入りの多い4メートル以下の軒下にあったが、今年の調査では約半数の巣が4メートル以上の高所に移っていた。人からの距離が遠い場所や無人の商店にかけた巣は外敵の襲撃を受けやすい。ひなが無事に巣立てるか心配になる。

 2001年7月、高南中学校科学部の生徒と萩原町の八木亮治さんを訪ねた。庭に枝を伸ばす樹齢450年の大笠松と、屋内の土間天井に営巣するツバメ。松やツバメについて質問する中学生の頭上を飛び回るツバメに感動した。5月、11年ぶりに八木さんを訪ねた。ツバメも健在で土間天井には5個の巣が並び、小窓からツバメが自由に出入りする。「大笠松の害虫をツバメが食べて守っている」「80年間ツバメと共生してきた」という八木さんの言葉が重く感じられた。ツバメは地球を渡るだけでなく、人の心を渡る鳥でもある。






(上毛新聞 2012年7月25日掲載)