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視点 オピニオン21
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前橋工科大助教  稲見 成能 (玉村町南玉)


【略歴】横浜市出身。筑波大大学院博士課程単位取得退学。専門は環境デザイン。前橋けやき並木フェスタ2011実行委員長、日本建築学会関東支部群馬支所常任幹事。


「仕組み」の弊害



◎価値ある文化の継承を



 いま、われわれの社会は完全に行き詰まっている。政治、経済、教育、福祉、いずれも先行きが見えないか、崩壊しかかっている。そのことを大抵の人々が感じているが、いまのところ、この状況を打破する手立てがない。

 このジレンマは、戦後の資本主義に根ざした自由主義や自由競争の行き着いた結果であり、その“オートマチックな仕組み”は、当初の「良いモノや、良い人が勝ち残る」という理想的な状況をはるかに通り越して、「良いモノをそぎ落とし、良い人をひきずり降ろしてでも勝ち残る」という本末転倒の状況を生み出し、なお暴走を続けている。その制御不能ぶりは、資本主義大国の米国ですら扱いあぐねるほどであり、経済のグローバル化も問題をより複雑にしている。さらに厄介なのは、この仕組みや流れを変えることのできる「力」を持つはずの一握りの者たちは、同時にそのほとんどが「仕組み」からの恩恵を受けて力を得た者であり、よって自ら大きな変化を起こそうとはしないということだ。しかしこのままでは、いずれ共倒れになるのは目に見えている(福島第1原発の事故はまさしくその典型である)。

 ただ、このような悪循環社会を招いた犯人探しをする意味は、もはやほとんどない。この「仕組み」の中で生きている以上、意識的か否かにかかわらず、誰もが被害者であり加害者でもあるからだ。

 最も憂うべきは「良いモノをそぎ落とし、良い人をひきずり降ろしてでも――」という方向性が確実にわれわれの文化を痩せ細らせるということだ。狂信的ともいえる「コストダウン主義」は、あらゆる行事や儀式、風習を簡素化し、行政を汲々(きゅうきゅう)とさせ、サラリーマンからは時間を奪い、モノづくりにおいては低質化や偽物化を促進し、腕のいい技術者や職人を不要化してきた。気付けば、生活が晴と褻(け)のめりはりを失い、中途半端な出来のモノに占められ、社会は平板で余裕のないつまらないものとなり、経済はデフレスパイラルである。

 この状況を乗り越える方法があるとすれば、それはわれわれが真に価値あるモノや文化を知り、そこに正当なコストを支払うという意思を持つことではないかと思う。

 そんな折、県内の建築関連6団体から成る「ぐんま街・人・建築顕彰会」が結成され、本県の街づくりや建築活動において多大に貢献した人や団体を顕彰する制度がこの7月に創設された。一般の方も対象となるものだ。街づくりや建築の分野も先述の「仕組み」に長年さらされ疲弊を余儀なくされていることから、真に価値ある文化を何としても次世代に継承せねばならないという危機感のもとに創設されたものである。詳しくは顕彰会のブログ(顕彰会名を検索)をご覧いただき、顕彰候補に心当たりのある方はご協力いただけるとありがたい。





(上毛新聞 2012年7月29日掲載)