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視点 オピニオン21
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群馬パース大学長  小林 功 (前橋市三俣町)


【略歴】渋川高、群馬大医学部卒。同大学院修了。医学部附属病院長など歴任、2005年から現職。群馬大名誉教授。歌誌「地表」同人。10年度県文学賞(短歌部門)受賞。


今の時代を生きる



◎過去の歴史に学ぼう



 若いころ、私は文系人間を任じていた。現在後期高齢者となり、短詩型文学(短歌・俳句等)に凝っている所ゆえん以である。本稿では私の拙い短歌を幾つか挙げて、今の時代に生きる姿を模索したいと思う。
●再軍備論われに判らず父に問へば戸惑ふごとく夜警邏に行く

 昭和20年代、敗戦により軍備を放棄した国に、警察予備隊がつくられ、やがて自衛隊となった。多くの若者は反発。私の父は警察官だった。
●一筋の光求めてわれゆかむ道は嶮しく苦しかれども

 高校2年のころから、医学部志望に燃えたのである。
●海を越えわが人生の師となりき その死ははやも幾年過ぎぬ

 医師となった私は内科の教室に入った。恩師の一人が米国留学時代のグリア先生であった。この大きい国と、どうして戦争したのか不思議でならなかった。
●食べる時寝る時カラオケする時も妻あはれみて「貴方は真剣」

 カラオケ「麦畑」を歌っていた時に、信じ難いが、左下か腿たいに肉離れを起こした。
●ひたすらにわが人生を顧みる人の縁えにしの有り難きかな

 還暦の時の感慨。結婚披露宴の挨あいさつ拶に役立つ。人と人との絆は人生にとって本当に大切なものだと思う。
●ようやくに文学修業始まれり戻れ感性戻れ青春

 平成13(2001)年、群馬大学を辞し、民間の病院に移った。若い時の感性は戻るはずはない。
●人生には若さが一番と学生に言ひし後なり 石につまづく

 平成17(2005)年から医療系大学で教壇にも立つ。ハワイ大学研修に行った際の一場面である。
●わが妻の御忠告など聞くたびにわれはこの頃難聴となる

 難聴を装っていたが、最近は高音性難聴となり、老いは迫る。
●美しく気立てはよいと勧められ あれから四十年みんな嘘なり

 人生はある程度の諦めも必要らしい。時間が要る。
●戦乱や大震災も過ぎてゆく宇宙の中の青き惑星

 どんなにつらくても、私たちはこの星の中で生きてゆかねばならない。 わが国は敗戦後、経済成長を遂げ、バブル時代を経て、現在の混こんとん沌たる時代を迎えている。世界的規模のグローバリゼーションの波に襲われ、政治・経済・社会全体に閉へいそく塞感が漂っている。

 しかし、いかなることがあっても、戦前の方向へ進んではならない。高崎駅西口への大通りを、闊かっぽ歩して戦地へ赴いた兵士たちのほとんどが消えていったのである。私たちは小旗を振って送り出したのである。

 提言を一つ。

 過去の歴史に学び、自分自身の、日本のアイデンティティーの確立に努力を。





(上毛新聞 2012年8月6日掲載)