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醤油販売の伝統デザイン工房社長  高橋 万太郎 (前橋市文京町)


【略歴】前橋高―立命館大卒業後、キーエンス入社。退社後、2007年に伝統デザイン工房を設立した。「職人醤油」のブランドで全国の老舗の醤油を販売する。


醤油メーカー訪問



◎評判を聞き飛び込みで



 これまでに300以上の しょう醤油ゆメーカーを訪問してきました。目的地が九州でも基本的には車移動です。30時間かけて車を運転するより、飛行機なら数時間だよと助言をいただくことがあります。ただ、5日間で20の蔵を訪問したい場合に、駅から数十分歩いたり、数時間に1本しかない電車を待つことを考えると、車の方が効率的なのです。

 全国には約1500の醤油メーカーがありますので、訪問先をどのように探すかが大きな課題になります。旅行雑誌のような見所やお薦めのスケジュールが掲載された本があれば助かるのですが、何事もそんなに甘くはないものです。自分で考えるしかないと腹をくくり、真っ先に考えたのはインターネットで探すことでした。ただ、そこに表示される情報が全てではないことにも気づきました。例えば、小規模生産をしていて、お客さまからの支持を長年得ている蔵があるとします。インターネットが登場するはるか前から商売を続けていて、量より質にこだわる造りをしています。大幅な増産予定はありませんので、インターネットで販路拡大する必要はなく、見栄えのよいサイトを持っている確率は少なくなります。

 一方でインターネットにも注力していて、ぜひ訪問したいと感じる醤油メーカーもたくさんあります。ところが、ここでも問題が発生するのです。「インターネットで醤油の販売をしています。工場見学にうかがいたいのですが…」と電話をすると、「インターネット? うちはいいや」という反応です。アポイントがとれないのです。多くの営業電話を断り続けるうちにインターネットと聞くと反射的に「うちは結構です!」と答えてしまうそうなのです。

 いずれにしても、訪問先は探しにくい上に、訪問の約束も取れないという状況です。そして、困り果てた末にたどり着いたのは飛び込み訪問でした。まずは1軒の醤油蔵を訪ねます。この地域で面白い取り組みをされている蔵はどちらですかとうかがうと、「それは○○さんだね」となります。住所を教えていただき、その足で訪問するのです。非効率のようで一番効率がよいことを実感していますが、相手の立場になってみるとこれほど迷惑なことはありません。忙しい作業の合間に突然やってきて、話を聞かせろ、工場の中を見せろと要求してくるのですから。

 ただ、準備なしの日常を感じることができるのも事実です。第一印象は最初の数秒で決まるといわれますが、忙しい中でも、「せっかく来てくれたのだから、まあ座って」「今は手が放せないけど2時間後だったら大丈夫」など、この時の印象とその後お付き合いさせていただいた後の印象とでは大きく違わないように感じています。





(上毛新聞 2012年8月7日掲載)