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静岡大人文社会科学部教授  布川 日佐史 (静岡県沼津市)


【略歴】ブレーメン大客員教授、厚労省「生活保護の在り方に関する専門委員会」委員などを歴任。雑誌『貧困研究』(明石書店)編集長。館林市出身。


孤立死を防ぐ



◎見守りの仕組み作りを



 困窮し、社会的に孤立した人を早期に発見し、支援する仕組み作りが各地で模索されています。厚生労働省は、相次ぐ孤立死を防ぐため、社会的に孤立した生活困窮者の日常生活支援を行うネットワークをその地域の条件を生かして作り上げようという通知を、今年5月に全国の自治体へ発出しています。秋には国の「生活支援戦略」において、生活困窮者の支援体制の底上げを図る7カ年の中期プランの策定が決まります。

 生活に困窮した人が生活保護を利用するのを躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない雰囲気が強まっています。さらに、生活保護の利用を制限する方向での制度改革も進められようとしています。そうではなく、貧困が拡大するもとで必要なのは、社会的に孤立している生活困窮者を早期に発見し、福祉行政につなげることです。

 家賃や公共料金を滞納し電気・ガス等の供給が止められた状態で孤立死した人が発見されるという痛ましいできことが連続しています。これを予防するには、家庭に継続的に関わっているガス、電気、水道事業者や、不動産業者、新聞配達員、郵便配達員からの情報が重要です。北海道のM町では、これらの人から生活状況や料金の支払い状況の変化の情報がリアルタイムで集まるネットワークが確立し、問題の早期発見を可能としています。

 日常生活支援や見守り支援が必要な人のために、民生委員、町内会、地域包括支援センター、NPO、社会福祉法人、消費生活協同組合、民間事業者、ボランティアなど多様な団体・人々と、地方自治体が連携し、新たな生活支援事業を展開し始めています。埼玉県G市では「いきいき・元気サポーター」による高齢者、障害者の見守りや買い物支援が実施されています。サービスを希望する人は利用券(30分あたり350円)を購入し、サポーターは地域の商店の共通商品券(1時間あたり500円)を受け取ります。

 静岡の浜松市では昨年度66件の孤独死がありました。行政、NPO、民間事業者など多様なメンバーで、地域のネットワークづくりの議論を続けています。孤立死予防として、居場所作りと、見守りの仕組み作りを目指しています。年内に提言をまとめます。それまで待ってはいられないと、メンバーの仏壇会社の社長さんが、県内5店舗の半径5キロ以内で孤立死を出さないことを目標に、社会福祉協議会と協同し、独居高齢者の見守り事業を始めようとしています。企業の社会的責任にもとづく新たなビジネスモデルと言えます。

 各地域で民の力が協働し、自治体の縦割り行政を横につなぎ、社会的に孤立した人のための支援ネットワークを作り上げることができるかどうかが問われています。






(上毛新聞 2012年8月10日掲載)