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視点 オピニオン21
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INOJIN工芸倶楽部代表  井上 弘子 (桐生市境野町)


【略歴】東京都大田区出身。筑波大芸術専門学群卒。同大学院を修了。在学中に陶芸を学び、県美術展や日本現代工芸美術展など入賞入選多数。工芸教室講師で工芸家。


買場紗綾市に参加して



◎作品販売で創作意欲も



 毎月第一土曜日に桐生市本町1丁目で開かれる「買場紗綾市(かいばさやいち)」に、INOJIN工芸倶楽部も昨年から参加しています。

 買場紗綾市は17年前、本町1丁目の当時の町会長、森寿作さんらを中心に誕生しました。江戸時代に栄えた絹織物を売る紗綾市を本町1丁目の「買場通り」に再現することによって、近代化遺産を活用し、重伝建選定の推進につなげ、ひいては街の活性化を促すという構想の中から生まれたとお聞きしました。

 今では桐生天満宮で開かれる「古民具骨董(こっとう)市」や本町3丁目のフリーマーケット「楽市蓙座(こざざ)」とともに桐生の三大市として定着し、観光名所にもなってきています。悪天候でも決行という中、創設から一度も休まずに出店している方もいるそうで、参加者の方々の熱意には頭の下がる思いがします。

 ところで、私がこの市に参加した理由ですが、将来的に工芸倶楽部工房に集う仲間の作品販売の場を作っておきたいと考えたのです。モノを作ることによって得られる心の安らぎ、他人に差し上げて喜んでもらえるうれしさといったものは、お金で買えない価値があります。でも、趣味から始めても、技術等が上達してくると、自分の作品がどれだけ他所で通用するのか試してみたくなります。公募展に出品するのも励みになるでしょう。工芸品は本来使うためのモノですから、販売するのもいいと思います。全くの他人がお金を出してまで自分の作品を欲しがってくれることは、たくさんの賛辞に勝る褒め言葉のように感じられます。工芸倶楽部のノコギリ屋根工房を運営していくためには、教室に来てくださる生徒さんからいくらかの月謝を預からなくてはなりません。支えてくださる生徒さんたちの腕が上がったら、自分の作ったモノが売れる喜びをぜひ味わっていただきたいと思います。

 ただ、今はどこの家庭でもモノは足りています。衣食住でファスト化が進み、一昔前では考えられないような安価でモノが手に入ります。そんな時代に手づくりのモノを売るには、付加価値を高めたり、他との差別化を図ったりしなくてはなりません。それを考えて創作することは、自己満足の作品づくりから一歩発展することにつながることでしょう。

 今日、販売の形態はネットや通信等、多岐にわたってきています。そんな中で、お客さまと対面してモノを売る市は、商いの原点という気がします。毎回、紗綾市の法被を着て、紗綾市音頭の輪に加わっている森さんたちが、「売るのは文化」というキャッチフレーズで頑張ってきた17年間の取り組みを私も見習いたいと思います。何事も一朝一夕では成し遂げられないものです。いつか実を結ぶ日を夢みて、工芸倶楽部も活動を続けていこうと思います。






(上毛新聞 2012年8月16日掲載)