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視点 オピニオン21
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帝国データバンク太田支店長  西村 泰典 (太田市飯田町)


【略歴】宮城県塩釜市生まれ、東京都大田区育ち。神奈川大卒業後、帝国データバンク入社。業務部や人事部、調査部、広島支店情報部長などを経て2011年3月から現職。

チャレンジの果実



◎チャンスを引き寄せる



 休日に何となくテレビの番組表を眺めていると、当地に赴任してからずっと気になっていた映画のタイトルが目に飛び込んできた。邦題を「狙った恋の落とし方。」という中国映画だ。タイトルを聞いてすぐピンときた人はよほどの映画好きかスバリストの人だろう。2008年に製作され、中国ではあの「レッドクリフ」をしのぐ観客動員数を記録するなど大ヒットとなった大人の恋の物語だ。

 四川大地震やチベット争乱、株価暴落など何かと暗い話題の多かったこの年に、フォン・シャオガン監督が人々を元気にしようとこの映画に込めて送ったメッセージは多くの人の心に響くこととなる。何せ中国だけでも1億人を超える人々がこの映画を見ているそうで、その影響力は甚大だ。映画では阿寒湖や岩尾別温泉、オホーツクの海を望む能取岬など北海道の美しい景色を切り取りながら恋人たちを乗せた車がクライマックスへと向かっていく。映像と物語に魅せられた人々がこぞってロケ地を訪れ、かくして北海道は、この映画を愛してやまない人々の聖地となった。

 実はこの恋人たちを乗せた車が、何を隠そうスバルのレガシィアウトバックだ。富士重工業の販売好調にこの映画が一役買っていることは当地でも案外知られていない。日本にいると気がつかないが、特に中華文化圏でのレガシィの人気は根強く、現在でも販売は好調を維持し続けているらしい。

 富士重工業の広報によると、中国の地元子会社がこの映画の企画を聞いて、北海道の大自然の中を走るレガシィの映像がブランドイメージの遡及(そきゅう)につながると、スポンサーに名乗りを上げたそうだ。少なくともこの映画によって北海道やスバルのブランドイメージや知名度が格段に上がったことは間違いない。これは棚ぼたではなく狙ってチャレンジしたからこその果実だ。ここまで読んで、しょせん、うちには縁のない話だと思わずにいてほしい。あきらめずにいつも狙っていること、そして行動することによりチャンスを引き寄せている会社や人がいるからだ。

 例えば、もっと身近な事例としては、高崎に映画やテレビに頼らず、しかもわずかな費用で、全国的に知名度を上げているお店がある。甘納豆で有名な芳房堂さんだ。こちらはコロプラという携帯の位置登録ゲームに参加することによりゲーム愛好者の間で評判が広がったのである。たかがゲームと侮るなかれ。東京の百貨店で開催されたコロプラ提携店舗による物産展は徹夜組も出るなど、関係者も驚くほどの大盛況だったそうだ。遊び心とチャレンジ精神が思わぬ果実をもたらすことがある。好奇心を大切にしたい。






(上毛新聞 2012年8月19日掲載)