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視点 オピニオン21
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見城農園  見城 玲子 (渋川市渋川)


【略歴】伊勢崎女子高、文化服装学院卒。1976年に結婚後、渋川市へ。主婦の傍ら25年ほど前から夫の彰さんと趣味で果樹栽培を始め、規模を拡大してきた。


栽培の適地



◎日照と標高が品質左右



 当園で栽培する果物の主要品種「コミス」は、18世紀の半ばにフランス・アンジョー県「コミス園芸協会」により育成された西洋梨です。大きさは原産地のフランスでは平均270グラムですが、当園では平均550グラムで、大きなものは1キロくらいになります。

 品質最高の「コミス」ですが、生産量が他の西洋梨の1割程度しかなくて経済栽培は不可能と言われています。自家用に栽培している国内の西洋梨生産者も多いですが、平均350グラム~400グラム程度で、渋川市が「コミス」栽培の最適地であることは間違いないと思います。

 日本が原産の果物に「柿」があります。「柿」の代表的な品種である「富有柿」は国内産が最高と思われている方は多いと思います。しかし、ブラジルの「富有柿」にはとてもかないません。

 ブラジルの篤農家、西尾文子さんが「ブラジルでコミスを栽培したい」とのことで何度か来園されました。お土産に西尾さんが栽培された「富有柿」を頂戴したのですが、大きさは国産の倍近くありますし、肉質や糖度も国産をはるかに上回る素晴らしい「富有柿」でした。検疫の関係で輸入できませんが、ぜひもう一度味わってみたいと思っています。農産物の原産地は「たまたまその品種が育成された」というだけで、必ずしも「栽培の最適地ではない」と言えることもあるのではないでしょうか。

 群馬県は他県に比べて日照時間が長く、農地も海抜10メートルの平地から1400メートルの高地にまであります。日照時間と標高による昼夜の寒暖差は農産物の品質にとって非常に重要な環境要素となります。当園は海抜550メートルくらいの中山間部にあります。自家用に山菜を栽培していますが、当園のセリやクレソンは、平地のものに比べて明らかに味が濃くうまいです。

 関西の料理店では大量にサンショウを使います。数店に自家用のサンショウを送ったところ「うまい」との評価を得ました。群馬県の日照時間と当園の標高が「関西のサンショウよりうまいサンショウ」を生んだのでしょう。関西市場からサンショウがなくなる時期でもあり、「遅出しの群馬県産のサンショウ」も面白いと思います。

 「クリは秋のもので紅葉と重なる」という印象がありますが、実際には紅葉の時期の10月には九州産のクリの出荷は終わっていて市場に出回ることはなく、クリを欲しがっている料理店さんは確保に苦労しています。「遅出しの群馬県産のクリ」も面白いのではないでしょうか。

 「いかに早く出すか」が全盛のようですが、視点を変えて「市場に出回らなくなった時期を狙って、いかに遅く出すか」という発想の転換も必要なのではないかと思います。






(上毛新聞 2012年8月20日掲載)