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視点 オピニオン21
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作曲・編曲家  福嶋 頼秀 (東京都板橋区)


【略歴】前橋市出身。前橋高、慶応大卒。会社員を経て、作曲・編曲家として活動を開始。オーケストラや和楽器の作品を多数発表。演奏会の企画・司会も手掛ける。


音楽を磨き上げるプロ



◎優れた技術と信頼関係



 大自然の中で、家族連れがピクニックやテニスを楽しむ秩父ミューズパーク。そこには響きの美しい音楽堂があり、7月下旬、東京トランペットカルテットのCDレコーディングが行われた。このグループはオーケストラで活躍するトランペット奏者4人で構成され、そのリーダーは群馬交響楽団・第一奏者の森重修実(もりしげおさみ)さん。森重さんと言えば“演奏の正確さと高い音楽性”で業界内外での評判が非常に高く、私もさまざまな仕事でお世話になっている。そしてこの録音で、私は演奏をチェックし音楽的な指示を出す役目を任された。録音は3日間にわたり、輝かしいバロック音楽、緻密な響きの現代音楽、ポップで楽しいアンダーソンやビートルズなど11曲が録音された。

 会場でまず驚いたのはステージに並べられた楽器の数で、なんと約20本!。トランペット奏者は曲のスタイルに合わせ、いくつもの楽器を持ち替えて演奏する。一般的なB♭管と呼ばれる楽器の他に、管が太くてまろやかな音色のするフリューゲルホルン、管が短くて高音域を得意とするピッコロ・トランペット等々。これらを各奏者が使い分け、さらには曲によってピアノや打楽器も加わって…。音楽家たちのアイデアにより、合奏の響きが繊細かつ大胆に変化してゆく様子は、爽快ですらあった。

 私が編曲した『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』も録音された。この曲はもともと、ドイツに伝わる童話…いたずら好きな道化師が巻き起こす、荒唐無稽な物語…のさまざまな場面を、R・シュトラウスという作曲家が描写音楽に仕立てた作品。本来は100人近くのオーケストラで演奏する複雑な音楽を、トランペット奏者4人だけで演奏できるように編曲したので、各奏者の技術的な負担は相当高い。だが彼らは超絶技巧のフレーズを楽々と演奏するだけでなく、微妙なニュアンスまで完璧に吹き分けるのだ。例えば「ここは“人々が騒いでいる場面”なので、その感じをもっと出して」と言えば、“やかましさ”を倍増させる。「自慢げに行進する感じで」と言えば、気品があって楽しいマーチに早変わり。優秀な音楽家と丁寧に音楽を磨いてゆく過程は、私にとっても大変刺激的であった。

 ところで、森重さんと私の出会いは約30年前。当時、中学校の吹奏楽部でトランペットを吹いていた私が、ある講習会でレッスンを受けたのである。それ以来、群響の演奏会に足を運び、氏の演奏に何度も触れた。その後、プロの作曲・編曲家になって約20年、ついには森重さんと一緒に仕事をするまでとなった。私は氏の仲間たちと仕事をする時、いつもどこかに尊敬の気持ちを持っている。そうして培ってきた信頼関係も、良い音楽を作る上での大切な要素の一つであろう。






(上毛新聞 2012年8月25日掲載)