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視点 オピニオン21
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高崎健康福祉大教授  入沢 孝一 (前橋市関根町)


【略歴】渋川高、中京大体育学部卒。嬬恋西中、嬬恋高をスケートの強豪校に育てた。日本代表コーチ・監督も務め、黒岩彰、黒岩敏幸を五輪でメダリストへと導いた。


スポーツ医・科学



◎研究生かし競技力向上



 16日間にわたって開催されたロンドンオリンピックが終了し、日本は金メダル獲得数こそ目標の約半数に終わったものの、メダル総数は過去最高の38個を獲得した。毎日、日本選手の活躍のニュースがライブで報道され、世界最高レベルの競技者による戦いに感動し、声援を送り、オリンピックの話題が日常のあいさつ代わりになった。スポーツが人間に感動と元気、勇気を与え、日本人であることの誇りと自覚を再認識する役割を果たすことを確認した16日間でもあった。

 日本は2001年の国立スポーツ科学センター(JISS)開所に続いて、08年にはナショナルトレーニングセンター(NTC)の全面共用を開始した。スポーツ医・科学的研究とトレーニングの拠点が整備され、ここを中心とした強化対策がメダル獲得に結び付いたことも大きな特徴である。 さて、前回はスポーツの持つ教育的な価値について述べさせてもらったが、今回はスポーツ医・科学の活用と競技力について考えてみたい。

 スポーツ医・科学と競技力向上に関与するスタッフの役割を大別すると、基礎研究をする者、基礎研究が役立つような研究をする者、そして、直接選手を指導するコーチ(及び選手)に分けられる。3者の関係は並列であり、世界で勝てる競技者の育成という共通の目標に向かい、3者のサイクルをらせん状に回すことにより高度なレベルに達することができる。

 従来、指摘されてきた課題は、3者間のギャップにより、らせん状のサイクルが機能せず、肝心の選手のレベルアップにつながってこない点であった。このギャップを埋めるためには、選手を含めた3者が共通の言葉でコミュニケーションを図ることが大事である。研究者は専門性の中に閉じこもらず、指導者や選手に研究成果を伝達するための工夫も必要であろう。トップ選手の指導者は世界で勝つために「これが最良の方法である」という予想によってトレーニング計画を組んでいく場合が多い。この計画を客観的に評価(チェック)し、補充や修正を行うことも研究者の役割である。また、「これが最良の方法」という内容を研究者が提示することも必要である。3者の良好な相互サポート関係がらせんサイクルを回し、より高いレベルに到達することが可能になる。

 スポーツ医・科学拠点施設(ハード)から成果を生むための鍵は人間力(ソフト)である。施設を活用し研究成果を生かす人材が競技力向上の鍵を握るのである。次回のオリンピックでは、本県出身の選手がたくさんのメダルを獲得し、県民に元気と勇気と感動を与えてほしいものである。本県の人材(ソフト)を有効に活用し、県版のスポーツ医・科学センター機能の強化が待たれる。






(上毛新聞 2012年9月2日掲載)