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視点 オピニオン21
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国立赤城青少年交流の家所長  桜井 義維英 (前橋市元総社町)


【略歴】川崎市出身。日体大卒。英国で冒険教育を学ぶ。1983年にNPO法人・国際自然大学校(本部・東京都)を設立。2011年4月から民間出身者として現職。


産業になる自然体験



◎安全の確保にはコスト



 今回からは、少し視点を変えてみたいと思います。今までは、体験をする人、特に子どもたちとその家族を見つめてお話をしてきました。今回からは、それを提供する人に目を向けてみたいと思います。デスティネーションキャンペーン(DC)でも体験旅行という言葉をよく聞きます。群馬でのキャンペーンでもあったように思います。体験の中でも、自然体験旅行は、夏休みなどの時にはとても評判の旅行だと思います。

 ここで、考えたいことがあるのですが、自然体験旅行と、自然体験教育にはどのような違いがあるのでしょうか。体験する活動そのものにはそれほど違いはないように思うのです。例えば、川遊び。川遊びをするときに、旅行の中で体験をする川遊びは…川で遊ぶのですね。その遊びにいろいろな目的を持たせて、友達と仲良くなろうとか、川の生き物を探してみようとかを加味すると、これは体験教育になるのですね。

 では、その遊びと教育に明確な境目が見つけられるでしょうか。旅行でお父さんと子どもが、この生き物はなんていうか調べてみるかということはよくあることでしょう。逆に、教育の中でも、暑いからとにかく川に入って涼みましょうということもよくあることではないでしょうか。

 そうなのです。自然体験をする旅行も教育も、その場が同じであるがゆえに、大いに重なる部分が多いのです。その場とは自然環境、すなわち故郷のような場所です。今までは、自然は故郷にあって、ただで楽しめるものというのが、多くの人々の発想でした。しかし、自然の中で安全に遊ぶ方法を知っている人が激減してしまいました。ですから、そこに、教えてくれる人が必要になってきているのです。指導者やガイドという人たちです。

 そして、この安全の確保にはコストがかかるという考えがだんだんに理解されてきているようです。ボランティアでは、その責任を負いきれないからです。安全で楽しく自然の中で体験活動をするために、そこに料金が発生するのです。戦後の高度経済成長で、遊びの伝承も途切れてしまったがゆえに、今、自然体験旅行や自然体験教育で、対価をいただく産業として成り立ちはじめているのです。それが体験型のレジャー施設であり、自然学校という新しいジャンルの産業でしょう。

 ただし、私のいる国立施設や公立の施設では、子どものときに必要な基本的な体験を必要最低限の料金でお子さんたちに提供する責務があります。そこからもっとと思ったときの体験には対価が必要ということです。新しい産業のひとつとして、自然学校を皆さんと考えていきたいと思います。





(上毛新聞 2012年9月3日掲載)