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群馬製粉社長  山口 慶一 (渋川市渋川)


【略歴】日本大学大学院修了。群馬製粉3代目社長として洋菓子用米粉「リ・ファリーヌ」や国産米 100%の「J麺」を開発。食糧、気象などに関する著書多数。


辻口さんとの出会い(3)



◎諦めない強さをもらう



 「パティシエ」という言葉を日本に根付かせた辻口博啓氏と2001年にお会いし、諦めかけていた展望が一気に開き始めます。辻口氏と共同で2年の歳月をかけ、お米の粉100%でケーキが作れる「リ・ファリーヌ」が03年に誕生しました。前代未聞のスイーツブームの到来とタイミングが重なり各テレビ局、新聞、週刊誌がこぞって取材に訪れました。おかげで、全国から会社に電話が殺到しました。瞬く間に、お米の粉から作られたケーキやパンが爆発的に普及し始めたのです。

 そんな一時の成功に酔いしれる間もなく、辻口氏と珈琲(コーヒー)の粉の共同開発が始まりました。「インスタントではなく、本物の珈琲の味を表現できないか」。ティラミスというデザートは皆さんご存じでしょうが、これまでティラミスにはココアパウダーが使われるのが当たり前でした。なぜ珈琲は生の粉がないのか? 微粉末にすることができないのか? 大豆からきな粉はできるのに、珈琲はなぜ細かくできないのか?

 珈琲には多くの油が含まれていて、細かくするとペースト状になってしまい、仮にできたとしても急速に酸化してしまいます。また、珈琲を細かくする際、静電気が発生し粉じん爆発の危険性があるため、どの企業も諦めていたのです。この難問を解決するため試行錯誤が始まり、これも2年かけて成功し「カフェリーヌ」と名付けました。今ではコンビニで販売されている珈琲のデザートのほとんどに使用していただく大ヒット商品になりました。

 しばらくして、辻口氏から「米と水で作られた新しい主食を開発することはできないか」と次なる課題が与えられたのです。小麦アレルギー、卵アレルギー、牛乳アレルギ―など、食物アレルギーの子どもたちが食べられるバリアフリーの食品を開発したいというのが理由です。それも「米と水だけで」との注文でした。紆う余よ曲折があり、これも約3年の歳月をかけ、静岡文化芸術大学で食品学の麺を研究する米屋武文教授との出会いもあり、米の粉と水から麺を作ることに成功、ジャパニーズライスヌードルを略し「J麺」と名付けました。

 辻口氏の実家は和菓子屋でしたが、わけあって倒産し、艱かん難なん辛苦を経験して世界一の栄光を勝ち取りました。彼は並の精神力ではないのです。それに私は感化され数々の商品開発を諦めることなく成功させることができました。辻口氏は私より4歳年下ですが精神年齢は10歳以上は私より年上であり、彼がいなかったら現在の私はありません。仕事、プライベートを超えて、私の人生の恩師です。






(上毛新聞 2012年9月8日掲載)