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現代芸術家  中島 佑太 (前橋市関根町)


【略歴】前橋市出身。中央高、東京芸術大美術学部卒。東京を拠点に活動後、2010年冬から前橋を拠点に、全国各地で地域と関わるアート活動を展開している。


大漁旗で日傘



◎地域密着型ものづくり



 前橋の弁天通り商店街には、県内唯一の洋傘専門店「セキネ洋傘店」がある。セキネ洋傘店は100年続く老舗で、現在の当主は4代目。高品質な洋傘が売られているだけでなく、傘の修理も行っており、露先(骨組みの先端部分)一つの交換だけでも快く引き受けてくれる。

 昨年の夏、被災地支援をしていた塩釜市の方々を前橋にお招きし、セキネ洋傘店を案内した。セキネさんでは、着なくなった着物などの古布を日傘に仕立てるサービスも行っていて、その手技を紹介したかったからだ。最近の群馬は暑い。涼しい塩釜から群馬にお越しいただく時に、気の利いた日傘でもあればいい。そこで生まれたのが、塩釜で使われなくなった大漁旗を素材とした日傘だった。

 群馬県民にはなじみの薄い大漁旗は、漁船の進水を祝って漁師仲間から贈られるもの。そのため、漁に出なくなった後も捨てられることなく倉庫に眠っているものが多いらしい。広げてみると、一枚一枚手染めで彩られており、使い込まれて退色していたり、力強くはためいてきたからなのか、一部が裂けていたりするものもあった。

 そのような大漁旗が、セキネさんの熟練した手技によってよみがえり、「フラッグパラソル~うみの日傘~」として完成した。この商品開発を機に、前橋と塩釜を拠点に活動するアーティストやデザイナーが地域を越えてものづくりをするプロジェクト「ものプール」を立ち上げた。互いの地域にある素材と手技を交換し、地域密着型のものづくりを通して、新しい地域の楽しみ方をデザインしていく狙いだ。

 大漁旗が使われなくなり、倉庫に眠っているのは、なにも塩釜に限った話ではなく、全国の港町共通の地域課題だろう。そこで、この大漁旗を使った日傘の作り方をレシピとして公開し、地域密着型のものづくりの手法をシェアできるようにするのがこのプロジェクトの特徴だ。インターネットが便利になり、いつでも、どこでも、誰でも、同じ情報を得ることができ、同じサービスを受けられるようになった。いつでもどこでもだれでもなネット時代だからこそ、地域密着型が面白いんじゃないか。

 地域密着型の活動は、地域の魅力を引き出すだけでなく、その地域にあるさまざまな課題や問題をイメージ化することがある。例えば、大漁旗という彩りはほとんど使われることなく倉庫に眠り、老舗洋傘店の店先には数百円の傘が並ぶことも。この背景にはさまざまな課題が潜んでいるように感じる。アート作品やアートイベントはこのような課題の解決策にはならない。重要なのは、アートはここではない遠くの誰かに伝える力を持っていること。いつでもどこでもだれでもできる地域密着型な新しい地域の楽しみ方をシェアしよう。







(上毛新聞 2012年9月9日掲載)