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視点 オピニオン21
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県民健康科学大准教授  杉野 雅人 (伊勢崎市連取)


【略歴】愛知県出身。2000年博士(工学)取得。診療放射線技師、第一種放射線取扱主任者、医学物理士。環境放射線の研究を20年続け、10自治体の放射線測定を監修。


生活と「放射能」



◎昔から身近な温泉療法



 ここ2回のコラムでは、福島第1原発事故後、昨年度における群馬県の放射線事情と私の放射線調査活動について述べさせてもらったが、現在も時間を見つけては県内の環境放射線データを蓄積している。最近になって得られたデータであるが、昨年4月と今年7月における土壌表面(地表から深さ2センチ以内)のセシウムの放射能濃度(ベクレル/キログラム)について比較してみた。7地点の測定結果であるが、最も下がっていたところでは、昨年4月の時点で2677ベクレル/キログラムあったのに対し、今年7月の時点では354ベクレル/キログラムまで減衰していた(87%の減衰率)。ほとんど変動のない測定地点もみられたが、7地点の減衰率を平均すると51%となり、半減期だけを考慮して計算した減衰率約30%を大きく上回る結果となった。

 このように計算値との間に差が出たのは、測定地点において部分的な除染が行われたか、あるいはウェザリング効果によるところが大きいと思われる。ウェザリング効果とは、放射性物質が雨によって他へ流出したり、風によって移動することをいう。ウェザリング効果によって、生活環境中のセシウム濃度の減衰が早まることを今後も期待したいところである。

 このように身近に感じるようになった「放射能」であるが、中には昔から身近で親しまれてきた「放射能」もある。「ラドン温泉」という単語を耳にした、あるいは目にしたことはないだろうか。ラドン温泉とは水1リットル中にラドンの放射能濃度が111ベクレル以上含まれる放射能温泉のことであり、100年以上も前から、経験的に「身体によい温泉」として親しまれてきた。

 その人気は現在も衰えることなく、秋田の玉川温泉、山梨の増富温泉、鳥取の三朝温泉等、国内に数多くある。ラドン温泉に行くと、血行促進、自立神経の調整、鎮痛作用等に効果あり、というような効能が書かれた看板を目にする。それを信じるか信じないかは各人の自由であるが、国内では三朝温泉病院や岡山大学三朝医療センターにおいて、ラドン温泉療法を行っている。リウマチ性疾患、気管支ぜんそく等の患者さんが数多く来院し、成果を公表している。ただし、日本においてラドン療法は医療行為ではなく、あくまでも温泉療法という位置づけである。一方、諸外国の一部、例えばオーストリアのバドガシュタインではラドン治療と称し、医療行為として認めている。高ラドン濃度の洞窟の中で呼吸することにより、気管支ぜんそくや肺がん等の治療に効果を示しているという。

 学会では、ラドンに関して肯定意見と反対意見に分かれる。経験的に良いものではなく、科学的に良いものとして立証されるにはまだ時間がかかるであろう。







(上毛新聞 2012年9月10日掲載)