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視点 オピニオン21
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前橋工科大助教  稲見 成能 (玉村町南玉)


【略歴】横浜市出身。筑波大大学院博士課程単位取得退学。専門は環境デザイン。前橋けやき並木フェスタ2011実行委員長、日本建築学会関東支部群馬支所常任幹事。


駅広にできること



◎歩行者主役の「道広場」



 前橋駅北口の駅前広場が全面改装されて5カ月が経過した。実は、今回の駅広整備にあたり、前橋工科大学のデザインチームの一員として、私はその基本構想を担当した。利害関係の少ない大学のような組織が関わり、このような都市デザイン的スケールで実際にモノが造られた事例は、本県ではまれではないかと思うので、この機会に都市デザインの考え方の一端について記してみたい。

 私は2月18日のこの欄で、まちづくりとその担い手のことを映画製作とそのスタッフに例えた。それに従えば、今回の件は「プロデューサー」である前橋市から駅広デザインの「脚本=基本構想」を依頼されたという構図になる(実際にはその後、他のメンバーが「俳優=デザイナー」も担当している)。そして、われわれスタッフと地元関係者で駅広検討会が組織され、検討内容を構想や計画に反映するという方法で進められた。

 さて、駅広デザインの直接的な設計の範囲は、バス等の車両用ロータリーとその周囲の歩道部が対象であるが、駅広の中ばかり見ていても良い脚本は書けない。都市的視点で、より広いエリアと将来を見通しながら、駅広の位置づけを決めていくことが重要である。つまり、駅広の機能性や安全性はもちろん、そのまちにふさわしい役割をいかに与えるかである。今回の構想では前橋駅北側に広がる中心エリアのにぎわい再生に向けて、北口駅広ができることは何かをテーマとし、前橋駅からけやき並木通りに沿って県庁までの在り方に言及している。

 まちがにぎわうためには、人がまちを歩かなければ始まらないが、現在の中心エリアには、そのための理由も環境も十分備わっていない。また「歩いて生活できるまち」というのは、来るべき“超超”高齢社会に対して、車依存社会の市が目指すべきまちの在り方のはずでもある。駅広のような基盤施設は人が歩く理由にはならないが、人が歩きだす起点としての環境を与えることは可能だ。

 そこで提案したのが、けやき並木への視認性確保と幅の広い歩道「道広場」である。道広場は歩行者を駅北口からけやき並木方向へ誘導し、イベントスペースとしても機能する。従来の駅広の主役は車であったが、新たな駅広は「歩行者が主役」であるとの主張だ。構想段階の道広場は、現在広場を分断している車路はなく、広さももう少し広く、屋内施設もあったが、それらは諸般の事情により実現しなかった。脚本担当としては心残りであるが、こういったことはよくあるし、むしろ道広場の実現を喜びたい。いずれ市民が欲すれば、心残りが解消される日も来よう。

 こうして、人がまちを歩くための「環境」が一つ生まれた。今後は環境だけでなく、より重要な「理由」づくりが県都の課題となろう。







(上毛新聞 2012年9月16日掲載)