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シンクトゥギャザー代表取締役  宗村 正弘 (太田市新田早川町)


【【略歴】足利市生まれ。富士重工業で車体設計を三十数年担当。退社後、2007年、工業製品開発を支援するシンクトゥギャザー設立。群馬大次世代EV研究会メンバー。


超小型車は普及するか



◎優れた経済性が強みに



 国土交通省が発表した超小型モビリティのガイドラインおよびその補助金制度の記事をきっかけに、何かと超小型モビリティに関する話題が増えてきました。その中に「本当に超小型モビリティは普及するだろうか」というご意見を耳にします。否定的意見を持つ多くの方は、小さい車なのでぶつけられたときの安全性が不安、1回の充電で走れる距離が短いので不便というのが大方の理由です。

 言われることは理解できますが、筆者はこれに対してまったく違う観点から「普及せざるを得なくなる」と考えています。その観点を述べると暗い気分になってしまいますが、あえて述べますと「将来の日本経済に明るい展望がまったく見えない」ということに根差します。

 60~80年のような高度経済成長は遠い昔の話。バブル崩壊以来、経済は伸び悩み、さらには新興国に押され急激に衰退しています。企業再生のための人員整理、若者の就職難、少子高齢化による労働人口の減少、年金受給者・生活保護受給者の増大、平均年収の減少、消費税増税などなど。

 この現代社会の延長線上にあるものは何でしょうか。まさか国が崩壊するとまでは言いませんが、大多数の人がこれまでの生活レベルを維持することが困難になることは間違いないでしょう。

 一方、地方で暮らしていくには、自らの移動手段としてクルマは必要不可欠なものです。クルマがないと自立した生活は成り立ちません。

 そこで超小型モビリティの登場となるわけです。この小さな電気自動車は、1キロ移動するのに軽自動車が約10円かかるのに対し、約1円で済む超経済性が大きな特徴です。財政的に圧迫された多くの庶民にとって最良の選択肢になる可能性が高いのではないでしょうか。

 筆者がこのような考えを持つようになったエピソードがあります。それは一昨年マイクロEV(電気自動車)の「μ―TT2」がNHKのニュースで報道されたときのことです。その夜、放送を見た視聴者の方から「自分は会社を定年退職し、現在はひとり田舎で年金生活を送っている。田舎ではクルマが不可欠で軽自動車を保有しているが、年金暮らしでは軽自動車を維持するにも経済的に大変なので、放送で見たあのEVを売ってもらえないか」という電話をいただきました。「まだ商品としては未完成なので」と、その場では丁重にお断りしましたが、このとき、そう遠くない日本の将来を見たような気がしました。と同時に、超経済的なEVを開発することがこれからの世の中に役立つことであり、それが自分の使命なのかなという思いに至った次第です。








(上毛新聞 2012年9月19日掲載)