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◎人をより身近な存在に ブラジルにはニックネームをつけて呼び合う面白い習慣がある。カカ、フーキ、ロナウジーニョ、ジーコ、ペレなど、誰も一度は耳にしたことのある有名なブラジル人サッカー選手だが、実はすべて本名ではない。サッカー選手に限らず、ルーラ元大統領のように政治家やテレビの有名人、身近な友人や親戚も、本名を知らずにニックネームだけで呼び合うことがある。 ブラジルの国民性がよくあらわれている習慣だが、ニックネームはその人の特徴を表現していたり、または、ちょっとした出来事によって決まったりする。例えば、フーキ選手のニックネームは彼が小さいころ読んでいたマーベルコミックの超人ハルク(ブラジルではフーキと発音する)に由来している。がっちりした体形のフーキ選手は超人ハルクに似ていることからも、彼の体形の特徴をユーモラスにとらえている。 また、日本語の「○○ちゃん」のように、かわいい表現方法として名前の語尾を「ニョ」「ニャ」に変え、それをニックネームとしてよく利用する。例えば、ロナウドはロナウジーニョ、パウラはパウリーニャといった形になる。場合によっては変なニックネームが定着してしまうこともあり、自分が好むかっこいい名前になるとは限らない。農業の仕事に携わっていたことから小さなニンジンという意味のセノウリーニャ、アリという意味のフォルミーガ、私自身も、赤ちゃんのおむつを意味するフラウジーニャというニックネームをつけられたことがある。 このように、ニックネームは普段の会話の中から生まれてくる。本名を隠すためのプライバシー保護機能というより、その人をより身近な存在にする働きがあり、誰とでも親しみやすくなるための習慣といえるだろう。 ブラジル人はおしゃべり好きな人が多く、スーパーのレジで待っている時やバス、電車の中でも見ず知らずの人と世間話をはじめてしまうこともよくある。とても冗談好きであり、ニックネームはそんな毎日の会話の中で自然に作り出されていく。ブラジルでは日本のように敬語も存在しないため、年寄りや目上の人に対しても冗談を交えながら会話をして、とても交流を楽しんで生活しているように見える。 しかしながら、インターネットが普及することで、人と身近に触れ合う機会が少しずつなくなっていき、陽気なブラジル人でさえ引きこもりが目立ちはじめている。ますますコミュニケーション能力が求められる現代だが、ブラジルのニックネームの習慣のように、人とのふれあいをより楽しむ方法もとても重要なことなのだろう。 (上毛新聞 2012年9月20日掲載) |