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視点 オピニオン21
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四万温泉協会長  柏原 益夫 (中之条町四万)


【略歴】中之条町生まれ。群馬大工学部卒。柏屋社長。2010年から四万温泉協会長。四万温泉や宿を日本のみならず世界の人々に知ってもらう方策を日々模索中。


四万のイノベーション



◎伝統軸に新しい価値を



 「世のちり洗う四万温泉」「国民保養温泉第1号」「上信越高原国立公園」「昭和レトロ」「湯治」…これらのフレーズは戦後一貫して、四万温泉のイメージを代表する言葉として使われてきました。

 四万温泉として大切にし続けてきた数々のイメージは、四万温泉らしさを維持するのにとても役立ってきましたし、未来に向けても四万温泉が大切にしていかなければならない絶対に外せない「軸」だと思っています。

 そして、その軸を中心にして、より上質な四万温泉らしさを発揮していく具体的な取り組みについてはこの欄でも何度かご紹介してきました。

 でも、わたしは心の片隅では、それらに地道に取り組み続けていくことだけで本当にいいのか―と、少しだけ違和感みたいなものを感じていました。

 そんなとき、ある方の講演を聴く機会があり、いま、四万温泉には大胆な「イノベーション」が必要な時期なのではないかと思うようになってきました。

 「イノベーション」とは単なる改良や改善ではなく、物事の「新機軸」「新しい切り口」などを創造する行為のことだそうです。

 例えて言うならば、ダイヤル式の黒電話がプッシュホンになったのは「改良」で、携帯電話は「イノベーション」といった感じでしょうか。

 そして今現在、四万温泉で取り組んでいることは、まだまだ「改良」「改善」の域にあると言えます(それはそれで、とても重要でやり続けないといけないことですが)。

 同じ講演で松下幸之助氏の言葉が紹介されていました。「3%のコストダウンは難しいが30%ならできる」というものです。ある段階に達したら今までの延長線ではなく、新しい視点を入れよ=イノベーション、ということだと思うのですが、まさに、わたしたちの置かれている状況はそうなのかもしれません。

 例えば「湯治をイノベーションする」。言い換えれば、湯治に対して今までにない新しい価値を創造する、ということです。温泉場での湯治に健康保険を適用する例は、ドイツなどではあるものの、国内でこれを実施したら小さなイノベーションになるのかもしれません。

 そのような背景もあり、この秋、四万温泉では初めての取り組みとして、若手経営者を中心にこれからの四万温泉の方向性を議論する、泊まり込みの「合宿」を実施することにしました。次世代を担う若い人たちに、エネルギッシュな議論を行ってもらうことで、「イノベーション」の芽がいくつも出てくると思っています。

 諸先輩が築き上げた古き良き伝統を軸に据えつつ、イノベーションする四万温泉にご期待ください。








(上毛新聞 2012年9月22日掲載)