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アドベンチャーレース・マネジメント  竹内 靖恵 (みなかみ町鹿野沢)


【略歴】愛知県出身。1997年のアドベンチャーレース(AR)で日本チームの通訳を務めたことが縁でプロレーサー・田中正人と結婚。以降、ARの普及活動に従事。


チーム競技



◎「和」を重んじ生かそう



 子どもたちの間で不動の人気を誇る戦隊ヒーロー番組。幼いころは欠かさず見ていた。あれから30余年、今では私の子が欠かさず見ている。ヒーローの種類は変わったが、仲間と助け合いながら悪に立ち向かう、いわば「和」を重んじる内容は30年以上たっても同じだ。

 以前、米国にこれを持ち込もうとした企画があったが失敗に終わったという。スーパーマンやスパイダーマンなど「個」のヒーローを好む国で「和」を大切にする戦隊物は受け入れられなかったらしい。「個」を大切にする欧米文化と「和」を大切にする日本文化。古来、日本人は他との調和を重んじる民族である。いくら海外から新しい文化やスポーツを取り入れても、DNAに刷り込まれた意識は随所に出てくる。

 今年のロンドン五輪において日本は団体種目やチーム競技での活躍が目立った。比較的新しい種目である女子サッカーは瞬く間に世界のトップレベルに立った。女子バレーボールは身長差という壁を越えて銅メダルを獲得した。競泳、卓球、体操、フェンシング等も次の選手へつなぐ団結力でメダルを取った。この根底には、もちろん選手のたゆまぬ努力があるが、もうひとつは日本人が最も大切にする「和」を正しく重んじたことにあると私は思っている。

 アドベンチャーレース(AR)はアウトドアスポーツの種目を複合するチーム競技である。メンバー全員で全種目をこなさなければならない。一人でもレースを継続できない場合、そのチームは棄権となる。一度スタートしたら選手交代はできない。四六時中チームで動くことがルールだ。しかし、仲間割れが原因で途中棄権するチームも少なくない。不眠不休で進み続ければ、当然あちこちに故障が出始める。肉体的にも精神的にも追い込まれたメンバーが漏らすささいな言動でチーム内に摩擦が起こり、摩擦がやがて割れ目となり、その割れ目が修復できなくなった時点で、チームはレース棄権を余儀なくされる。メンバーの現状をチーム全体でどれだけ把握・理解し、フォローし、助けられるか。文字通り「和」が鍵となる競技だ。

 日本ではアウトドアスポーツ自体なじみが浅く、パワーや技術もまだ欧米には追いついていない。しかし、どんな時もチームでこなしていかなくてはならないARの競技形態は、「和」を大切にする日本人の気質に適している。チームイーストウインドが今年のパタゴニアエクスペディションレースで準優勝を成し遂げたのも、彼らにしっかりと根付いている「和」の気質、すなわち互いを思いやる気持ちが、不足したパワーや技術を補強したからだ。






(上毛新聞 2012年9月24日掲載)