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前橋地裁所長  三好 幹夫 (前橋市大手町)


【略歴】鳥取県米子市出身。名大院修了、1975年に司法試験合格。最高裁調査官、司法研修所教官、東京地裁刑事所長代行者などを経て2011年5月から現職。


ポイントに集中させる



◎市民が胸を張る審理に



 県内で4千人の方々が来年の裁判員名簿に記載されることになりました。その通知は11月中に、例えば候補者が最も多い高崎市では0・2%の確率で、皆さまのもとに届く予定です。実際に裁判員として参加するには、個別事件でさらに2度の抽選が必要ですので、裁判員の経験は誠に得難いものとなります。前橋地裁では、判決を終えた裁判員を所長室にお招きし、ねぎらいの言葉と共に感謝状と記念バッジを差し上げていますが、裁判員の方々は一様に、職務を成し遂げた安心感と充実感で、実にすがすがしい顔をされています。

 さて、陪審制の国アメリカのテレビドラマ「ロー&オーダー」が一挙放映中です。心臓の鼓動を伝えるような独特の効果音と共に、ドラマ前半で捜査から一気に逮捕まで進み、後半で起訴から陪審員の評決に至る刑事ものです。小気味の良いテンポで物語が進行し、ぼんやり見ていると、あらすじを追うことができなくなるほどですが、集中すれば、きちんとポイントが浮き彫りになるように工夫されています。45分間のドラマですが、視聴者は、見終わると、事実の経過と法廷審理の全てを見せられたという充足感があります。叙情的でゆるゆるとしたわが国のサスペンスドラマと比べると、「話す・聞く」文化のアングロサクソンとわが国民との、身に染み付いた文化の相違を今さらながら痛感します。短い時間に事件の実態を余すところなく、しかも印象的に描き切る技術には脱帽します。

 振り返って、わが裁判員法廷です。ゆったりと時間をかければ審理が充実するというものではありません。事件には、そこだけは参加する市民によくよく考えて結論を出してもらわなければならないテーマ、真に理解した上で意見を述べていただかなければならないポイント、そこをどう見るかで結論が分かれる判断の分岐点があります。その点に照準を合わせた審理であればこそ、自然に関心がそこに集中し、参加した市民が、この点は徹底的に審理し議論したのだから、裁判員裁判に確かに「参加した」と胸を張ることができるのだと思います。法曹3者は、できる限り裁判員の注意力がその要点に集中されるよう一層の知恵を絞り、法廷技術を磨くべきです。

 制度発足以来、書面に依存した審理の是正が解決困難な課題となっていますが、法廷中心の審理を実現するには、法曹の鍛え抜かれた尋問技術が不可欠です。ここ群馬では、本年2月から、弁護士会と前橋地裁が協力して、若手弁護士が尋問を実演し、熟練弁護士や裁判官がその結果を検証する尋問技術研究会を開催するようになりました。若手を中心に熱心に尋問の在り方を勉強しています。効果が出てくるには、まだまだ時間がかかりますが、弁護士会と共に少しずつ理想に近付けたいと思っています。






(上毛新聞 2012年10月6日掲載)